許せ!

許せ!—1 SAKURA∞SAKU first

「ふぁーーー。眠い。」

 

朝風呂に入りタオルを首にかけ、よろよろと自室に戻る。

 

「ふぁ・・・」

 

何故だろう。

最近仕事がめちゃくちゃ忙しくてここ2週間ほど修羅場を体験した。

どうやって時間が過ぎて行ったかほとんど記憶が無い。

 

(しんどかった・・・)

 

睡眠時間もかなり削りまくったので頭がボーっとする。

まぁでも、これでも早く終わった方だ。
累が積極的に仕事を手伝ってくれたので2週間で済んだともいえる。

 

 

(累・・・・・か。)

 

 

女として好きだと言ってくれた累。

 

あの時のあいつはあまりにも真っ直ぐで・・・
本当に想ってくれてるのかも、と思って軽く流すことが出来なかった。

ま、その後何か変わった様子もなく普通に過ごしてるのだけれども・・・

 

「女、ねぇ・・・」

 

女として見てもらえるようなヤツじゃない。
そんなの自分が一番良く分かってる。

だからこそ私のどこに女を感じたのかさっぱり分からない。

 

「はぁ・・・」

 

千秋の件で良く分かったはずだ。

あの時は頭に血が上って突っ走ってしまったが
もし一人の男としてあの時の自分を見ていたとしたら?

---やはり男だったか

間違いなくそう思う。
もはや女として成り立たない。

 

思うにあいつ等と私との違いなんて・・・
身長と力と髪の長さくらいじゃね?

まぁ一緒に風呂には入れねぇけど、男らしさだけ考えたら私が一番いい男かもしれねぇよ?

 

 

「累たん・・・」

 

 

正直

 

 

どうしたらいいのか分からん。

 

 

(今日は・・・土曜か。)

 

とにかくちょっと頭を休ませよう。

今度あっ子様に色々と相談するとして、今日はゆっくり休みたい。

日付感覚もなくなってるし・・・
なんせ部屋に缶詰状態だったからな。

 

(今夜は早めに飲んで寝よ。)

 

とりあえず腹が減った。
何か食べよ。

 

「食い物、何かあったっけ・・・」

 

ああそうだ。
確かカップ焼きそばが--

 

 

「うぉっ!!」

 

 

ドアノブを掴んだ。

と思ったら同時に勢い良く扉が開いた。

自然、前に突んのめる。
そして何かにぶつかった。

 

「なっなんだぁ!?」
「・・・・・今日はやけに積極的だな。」
「は?」

 

コケなかったのはこいつのおかげ。

いやいや。
コケそうになったのはこいつのせいだ。

 

「バカが。てめぇが急に開けるからこうなったんだろ。」

 

倒れそうになった私を支えたのは

 

俺様孝様。

 

孝「お前から抱きついてくるなんて。今日は何が降ってくるんだろうな。」
「知るか、私に聞くな。それに抱きついてねぇ。放せアホめ。」

 

しれっと腕を掴んでいた孝の手を叩き落とす。

 

「それにしてもお前は学習しねぇな。部屋に入るときはノックしろ。何度言ったら分かるんだよ。」
孝「必要ねぇだろ?」
「必要だから何度も言ってるんだ。」

 

孝様は相変わらず私の言葉が耳に入らないらしく、しつけるのに大変苦労しております。

 

「ところでお前、何か用か?」
孝「てめぇ・・・まさか忘れてんじゃねぇだろうな。」
「何を。」

 

え、何かあったっけ。

 

孝「今日は空けとけって1週間前に言った。」
「え・・・言ったっけ。」
孝「言った。」

 

マズイ全然覚えてない。

1週間前っていったら修羅場の真っ最中だったからな。
でもなんとなーくそんなこと言われたようなないような・・・

 

「悪ぃ覚えてねぇ。でも今日は大丈夫だぞ。仕事も一段落したからな。」
孝「当たり前だ。忘れられた上にすっぽかされたらたまらなねぇ。」
「そりゃそうだ。で?用事ってなんだ?」
孝「出かけるぞ。」
「は?え、ちょ、ちょっと待て!」

 

せっかく振りほどいた手を再び掴まれる。
そしてそのまま玄関へ直行。

 

「おい!待てって!」

 

コラコラ外に出るつもりか!?

いやいや待て待て何も用意してないんすけど!

せめて軽くお化粧とかさせて下さい!
一応女子なんでー!

 

 

心の叫を口にする間もなく

 

 

正に『何も持たず』家から連れ出された。

 

 

「あのぉ、実は私女なんですけど・・・身だしなみくらい整えたかったんですが。」
孝「心配すんな。」
「は?」

 

こいつの言うことはいちいち理解が出来ない。

頭が良すぎるのかめちゃくちゃバカなのかどっちかだろうと推測する。
ま、後者で間違いないだろうけど。

 

「それで?」
孝「あ?」
「どこに向かってんだよ。」

 

私達は今、孝の車で移動中だ。
どこに向かってるのか皆目検討もつかない。

 

孝「行けば分かる。」
「おいおい。」

 

そういう返答って不安になるじゃねぇか。

だがそれっきり何も言わなくなった孝。
答える気はないらしい。

 

(どこまで行くんですかね、こいつは。)

 

車に揺られながら外の景色を眺める。

 

(あー、眠ぃ・・・・・)

 

程よい揺れとふわふわな座席が眠気を誘う。

 

あー酒が欲しい。
今なら少量で眠れそうなのに・・・・

 

 

(あー・・・ね・・む・・・)

 

 

本格的にカックンと船を漕ぎ出した頃

 

 

車が止まった。