姉ちゃん

姉ちゃん—1 SAKURA∞SAKU first

--累--

 

有「累たん、そろそろ終わっていいぞ。」
「え?」

 

現在、深夜2時。

約束通り、俺は有希の仕事を手伝っている。

 

「なんで?今日は徹夜で手伝うよ。」
有「ばぁか本気にすんなよ。マジで徹夜させるわけないだろ?」
「・・・・・。」

 

チラリと俺を見てニッコリ笑う。


その笑顔に・・・不覚にもドキッとしてしまった。

 

有希のこと好きになって結構経つけど
相変わらず、俺はこの人の笑顔に弱い。

 

でも、正直言って運動が出来るとは思ってなかった。

どちらかというと苦手なんだろうなって・・・

だって毎晩酒飲むしタバコすぱすぱだし
おまけにひきこもりのPCオタクだし

だりぃ、とかいって運動自体やらなそうなイメージだったから。

 

でも、それは間違いだったみたい。

目を瞑るとさっきの様子が頭に浮かぶ。

軽く相手をかわしてシュートを決める有希
華奢な腕で一生懸命ボールを放る有希

冗談抜きですごく可愛かった。

 

有「累?大丈夫か?」
「え!」
有「手伝ってくれて助かったよ。疲れてたのにありがとな。」
「え・・・」
有「ほら、もう寝ろ。」
「・・・・・・・。」

 

思い出に浸る俺を眠りかぶってると勘違いしたのか
体をこっちに向けて心配そうに顔を覗き込んでくる。

 

「有希はまだ寝ないんだろ?酒も飲んでないじゃん。」
有「あぁ、今日は飲まないよ。寝る前に少し飲んで仮眠は取るけど。」
「じゃぁ俺もまだ手伝う。」
有「・・・・・・。」

 

"手伝う"っていうのは口実。
実際は一緒にいたいだけだ。

有希の言葉を無視してキーボードに手を戻した。

 

 

有「・・・ごめんな、累。」

「えっ?」

 

突然謝られた。
普通にビックリする。

 

有「累は義理堅い子だもんな。変な約束させてごめん。でも本当に大丈夫なんだぞ?」
「・・・・・。」

 

何それ。

有希の中で俺は義理堅い子になってるわけ?
義理堅いはいいけど「子」はやめろよ。

すっげぇムカつく。

 

「別にそんなつもりじゃないよ。まだ眠くないし、明日休みだから。」

 

(子供扱いするなよ・・・)

 

あぁ・・・ダメだ。

 

バスケ帰りに起こったあのトラブル。
あの後からなぜか消えないモヤモヤが広がっていく。

 

イライラするというか
ズキズキするというか

 

こんなの初めてで・・

 

なんだか苦しい。

 

有「そうか?それならいいけど。でもとりあえず休憩しよ。目が疲れた。」
「・・・うん。」

 

部屋には持ち込んだ飲み物やらお菓子やらが大量に置いてある。

有希は濃いコーヒーをグイッと飲み干し、強力なミントキャンディーを口に放り込んだ。

 

有「うはぁ!きくー!」

 

そう言いながらベッドにポスンと座った。
スプリングで体が揺れてる。

 

有「楽しかったな、バスケ。」
「えっ?あ、あぁ・・・俺はビックリしたけど。」
有「私の凄さに?」
「・・・うん。」
有「えっへん!見直しただろ?でも既に体が超痛ェ。朝になったら全身筋肉痛確定だ。」

 

バッキバキだー、なんていいながら腕を回す有希。

そんな様子まで可愛いと思えるんだから困ったもんだ。

 

「あんなに動いたら誰だってそうなるよ。」
有「そうか?あ、そうだ。そういえば私が負けたら何してもらいたかったんだ?」
「…えっ!?」
有「純君に殴られてたじゃんか。何考えてたんだよ。」

 

くすくす笑う有希。
ずいぶん楽しそう。

ていうか…

 

(何考えてたのかって・・・?)

 

それは---もちろん有希とのことだよ。

デートして、とか
付き合って、とか

キスさせて、とか…

 

「べ、別にいいじゃん。どうせ負けちゃったし。」

 

自分で思い出しておいて情けない。

『キス』ってキーワードに

有希の唇に目を奪われてしまった。

 

(柔らかそう・・・)

 

そういえば、初めてキスした時は軽く触れただけで一瞬だった。

 

(甘いんだろうな・・・)

 

重ねてみたい。

あの時なんかより-----深く・・

 

小さくなった飴をガリッと噛む有希。

最後まで舐めない派なんだな。

そのままコーヒーを少し飲んで

 

そして、下唇をぺロッと舐めた。

 

(------!!)

 

だ、だめだ!

なんか・・・今の・・・

 

思わず視線を切った。

 

有「どしたの累たん。話し聞いてたか?」
「え・・・話?」
有「あー、聞いてなかったんだな?」
「ご、ごめん。」

 

何も聞こえなかった。
どれだけ唇に集中してたんだよ俺は。

 

有「昼間の続きってわけじゃねぇんだけど。引越しも手伝ってもらったし何かお礼させてくれよ。私に出来ることで。」
「お、お礼?」
有「そうそう。」
「お礼なんていいよ。大したことやってないし・・・」
有「そんなこと言うな。そうだ、飯食いでも行くか?姉ちゃんが腹いーっぱい食わせてやるぞ?」
「・・・・・・。」

 

 

きっと・・・

 

 

ただの悪ふざけで言っただけなんだろう。

 

 

でも---

 

 

俺の中の「男」を突き動かすには十分だった。

 

 

(なんだよ、それ・・・)

 

 

「姉ちゃん」ってなんだよ。

 

 

(ふざけんな・・・・)

 

ベッドに座る有希の前に立つ。

そしてコーヒーカップを取り上げ、テーブルに置いた。

 

有「累たん?どうした?」

 

ここまで接近してるのにまだ警戒しないわけ?

ほんと・・・
どこまでも俺のこと、男だって意識してくれてないんだな。

 

「お礼なら今欲しい。」
有「今?でも今は何もないぞ?」

「大丈夫・・・ちゃんとあるから。」

 

 

有希の肩を

トン、と押した。

 

 

有「へ?」

 

警戒心ゼロの体は簡単に後に倒れてくれた。

 

俺はこんなことしないって思ってた?
無防備すぎるにも程があるよ。

 

 

有「る---」

 

 

有希の両手首を掴み、ベッドへ押しつける。

 

 

そして柔らかそうな唇に

 

 

自分のを重ねた。