不器用な大人たち

不器用な大人たち008~Loveholic




「ぁッ--っ・・・ぅッ--」

「-----!」

「ふ、ぅ---っ・・・」

「・・・・・。」






一度出たら止まらないなんて良く言うけど、あれってほんとだ。

心が乗り移った涙は止めようと思っても止まらない。

次から次に飛び出してくる。






「茜・・・」






俊の動きが止まった。

興醒めしただろうか。
面倒臭い女だと思われただろうか。





でも・・・それでいいのかもしれない。





これ以上続けても傷つくだけだ。

それにこれ以上---





好きになるのが怖い。






「茜・・・」

「--っ、ぅっ・・」



「泣くなよ・・・」

「-------っ!!」






大きな手がフワリと頬を包んむ。






そして近づいてきた唇が目元に触れて・・






(えっ---?)






そのまま、優しく抱きしめられた。






「なっ---なに・・っ・・・」

「・・・・・。」

「・・ゃ、やだ----っ、ぅ・・」

「泣くな・・・」






(や、やめて・・・!)






どうして

どうしてそんなに優しく触れるの?






「・・・っ・・・・俊・・」

「・・・・・。」






直接感じる熱が心地いい。

まるで包まれているようでこのまま身を委ねたくなる。






でも、胸が苦しい。






だって分かってる。






どんなに体を重ねても






心が重なることはない。







「なぁ茜・・・」

「--ゃ-ッ・・・っ---」

「茜。」

「----ぅッ・・・」









「好きだ・・・」









・・・・







ぇ・・?








「・・・お前が幸せならそれで良かった。他の男のモノになってもいいと思った。」

「---。」

「でも・・・やっぱりムリだ。」

「ぇ・・・」

「あんなの見せられて・・・他のヤローとの幸せを願うなんてできねぇ。」

「・・・あ、あの---ぇ?」






(な、なに・・・・・・?)






あまりにも強く願いすぎて幻聴でも聞こえてるんだろうか。





だって・・・好き?

俊が?私を?







「好きだ、茜・・・」

「-----!」






耳元で響く掠れた声。


それは今にも消え入りそうなくらい弱々しくて

でも、はっきりと聞こえて---






(う、うそ・・・)






これは---夢なんだろうか。

悩みに悩みすぎて幸せな夢を見てるんだろうか。


でも重なる肌はとても温かくて

背中に回された腕は力強くて・・






「俊・・・っ」






もう、夢でもなんでもいい。

夢なら夢で覚めなければいいのにと思う。






「まぁ・・・今更こんなこと言われても困るよな。」

「っ、・・・」

「・・・泣くなよ茜。お前に泣かれるとどうしたらいいか分かんねぇ--」

「・・・ぅ、--」






俊の声は消え入りそうなくらい弱々しいけど・・

裏腹に私は----

嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。







「好き・・」

「え?」

「私も---俊が好き・・・!」







そして嬉し過ぎて、堪らず言葉が飛び出した。






「・・す、き-----好き、っ・・・」

「・・・・・。」

「・・・、俊がっ・・好き----ぅ・・」










「・・・・・・え!?」










この時の俊の顔は

きっと一生忘れられない。







ガバッと体を起こし、私の顔を覗き込んでくる。


零れ落ちそうなくらい丸くなった目
暗がりでも分かるほどに上気した顔

少なくとも知り合ってからこんな表情見たことがない。






「え、と---」

「・・っ、・・・・、--」

「・・・茜・・・ずっと好きだった‥」

「--っ」

「俺と---付き合ってくれないか?」






まさか・・・

俊が私を好きでいてくれたなんて思ってもなかった。






まぁ、それはお互い様だったみたいだけど。






「---うん、・・」






あれだけ一緒にいたのに
あれだけ体を重ねたのに

お互いがお互いの心を知らなかったなんて

どれだけ鈍いんだよって思う。




しかもこんな形で知ることになるなんて・・・







「ねぇ、俊---」

「・・・なんだ?」

「・・・・抱いて」

「!」








-------なんて不器用な大人たち








「っ、ぁ----」

「・・・・っ」

「ゃ、ぁ----!」

「なぁ茜・・」

「ん---な、に・・・?」

「・・・アイツ、誰だ?」

「ぇ・・?」

「・・・さっき一緒にいたヤツ。」

「---同期。」

「あ?」

「さっき一緒にいた人、会社の同期だから。」

「--------へぇ。」







end