スポンサーリンク
「ゃ、やだっ--ちょっと---!」
「・・・・・。」
「俊っ!」
「・・・・・。」
途中タクシーを経て、更に引きずられること1分。
俊はいかにも高級なたたずまいのマンションに躊躇なく侵入した。
「俊!放して!」
「・・・・・。」
「聞いてるの!?」
「・・・・・。」
「この---!いい加減にしてっ!!」
エレベーターの中、一方的に怒鳴り散らす。
しかしダメだ。
話を聞いてくれるどころか目も合わせてもらえない。
「来い。」
「え!?ちょ、ちょっと!」
8階で開いた扉をまたぐ。
迷うことなく到着したドア。
俊はその鍵を開けて私を中に押し込み
そして---
ガチャッ
後手に玄関の鍵を閉めた。
「な・・・何考えてんの?一体ここはどこ!どういうつもり---うわっ!」
やっとまともに話せる、と思ったのも束の間。
再び手を掴まれ部屋に引きずりこまれた。
「く、靴!靴!!」
靴を脱ぐ暇すら与えてもらえない。
清潔な匂いのする広い部屋。
その中を電気もつけず奥へ向かって歩いていく俊。
(-----あっ・・)
薄暗い中、ソファーに投げ置かれたジャケットが目に入る。
見慣れたソレを・・・
見間違えるはずがない。
(まさか・・・)
ここって、俊の家・・・?
「わっ---!」
考える暇もなく、不意に浮遊感に襲われた。
その直後、背中に柔らかな感触。
そして次の瞬間、大きな体が上から圧し掛かってきた。
「え・・・」
一瞬、何が起きたか分からなかった。
だって
どうして押し倒されてるわけ?
「・・・・・俊?」
両手ともシーツに押し付けられ、体は圧し掛かった俊のせいで身動きが取れない。
「---------。」
「・・・・・・・・・。」
恐る恐る見上げると、薄暗い中、真っ黒な瞳と目が合った。
そういえば・・・
今日はじめて目を合わせたかもしれない。
(俊・・・)
暗くてはっきりは見えないけど
懐かしくて愛しい・・・
苦しいほどに焦がれた精悍な瞳。
二度と会うことは無いと思ってた。
偶然会うことはあっても、意図的に二人きりになることはないと思ってた。
だからかな・・・
すごく、嬉しい。
分かってる。
こんな気持ちは断ち切るべきだって。
それでももう一度顔を見れたのは・・・
素直に嬉しいと思う。
それにしても
(お、怒ってる・・・?)
行動も態度も、そして漂う空気も
俊から感じるもの全てがピリピリしてる。
現に押さえ込まれてるわけだし・・・
間違っても「元気にしてた?」なんて言い合える雰囲気じゃない。
でも・・・
なんで怒ってるの?
「・・・あいつか?」
「え?」
「・・・この前言ってたのはあいつか?」
「?」
この前・・・?
なんのこと?
「気に入った男がいるって言っただろ。」
「え・・・?」
気に入った男・・・
それって、最後に会った時のことを言ってるの?
「ど、どうでもいいでしょ。俊には関係ない。」
何を言うかと思えばなんだそれ。
そもそも関係を絶った相手に深入りするのはルール違反だと思う。
それに俊に男関係を聞かれるのは正直辛い。
電気をもつけていない薄暗い部屋。
やっと目が慣れてきたのか、不機嫌そうにこっちを見下ろす俊の顔がはっきり見えてきた。
「それを聞くためにわざわざ連れて来たの?」
「・・・・・。」
「一体どういうつもり?・・・私たちはもう終わったでしょ。」
「・・・・・。」
「・・・退いて。帰る。」
「・・・・・。」
なんでだろう。
まるで睨むように真っ直ぐな視線を寄こす俊。
でも、その視線の意味を聞く余裕はない。
だってこれ以上近くにいると泣きそう。
知らないと思うけど・・・
私、あんたのことが好きなんで。
「はぁ・・・」
「?」
なぜか困ったように目を伏せ、深いため息をつかれた。
(え-----!)
そして2、3秒後。
ゆっくりと開いた形のいい目は
さっきよりもずっと鋭く、私を睨みつけた。
「なっ---」
なんで睨むわけ!?
なんて悪態つく暇もなかった。
「--------っ!!」
シーツに押し付けられていた手が頭の上でまとめられる。
そして・・・タオルだろうか。
柔らかな布を手首に絡みつけ、ギリギリと締め上げてくる。
「ちょっ--!何すんの!?」
「・・・・・。」
「や、やめて!」
「・・・・・。」
もちろん暴れる。
そりゃ暴れるでしょ。
だってこれって、まさか---
スポンサーリンク