reason

reason 10~ GAME




「あ、あのあの、ごめん。」

晋「・・・・・・。」

「え、えと、話したくないなら話さなくて全然構わな--」

晋「高原総合病院。」

「・・・へ?」






な、なんだ?

高原総合病院?






晋「駅の隣にあるだろ。」

「そ、そりゃもちろん知ってるけど・・・あのでっかいマンモス病院だろ?」

晋「あぁ。」

「で、それがなに---」

晋「そこの院長やってる。」






・・・へ?






「誰が?」

晋「だから・・・俺の親父。」

「え・・・」






(・・・え)






あの高原総合病院の?

院長が?

お前の-----




パパさん?






「え-----ちょ・・・そいつはドカンとビックリだわ。」

晋「・・・・・・。」






高原総合病院って言えばあれだぞ。

T大付属病院と並んでメディアにも良く取り上げられてる超有名病院。

そんな病院の院長様が親父だなんて・・・

あまりのビックネームにすごさレベルが良く分からない。






「そ、そういや晋の苗字って『高原』だったな。」

晋「・・・・・あぁ。」






うわぁ、マジかよ・・・

なんだか有名人の息子に遭遇した気分なんですけど。

ま、有名人といっても親父さんの顔も知らないんだけどな。






「あ!だからあいつらあんなにビックリしてたのか!?」

晋「・・・・・・。」

「なるほどそういうことだったのか・・・謎が解けた。」

晋「・・・・・・。」






謎、つまり病院での司と岡野のことだな。

そりゃ高原総合病院の院長と食事するなんて言ったら驚くわ。

ドクター達にとってはなおさら衝撃的だっただろう。






(そっ、か・・・)






だからあの時、あいつも諦めが早かったのか。






「なにはともあれ、お前の親父さんには感謝しないといけないな。」

晋「・・・・・・。」

「親父さん、今日は助けてくれてありがとうございました。次回から健康検診は高原総合病院で受けることにします。」

晋「----------。」






とりあえず病院の方向に手を合わせてみる。

想いよ、親父さんに飛んでいけ。



それにしても・・・



親父がそんなに立派だとなにかと大変そうだよな。

何をするでも親父の影がついて回るだろうし、事あるごとに「院長の息子」だなんて言われるだろうし。






(あ、そっか・・・)






だからこんなひねくれた大人になったのか。

うんうんなるほど、納得。






晋「・・・・・・意外な反応だ。」

「へっ!?」






ビ、ビックリした。

失礼思考がバレたかと思った。

ていうか意外って・・・

なにが?






晋「・・・親父のことを知ると大半のヤツは目の色を変える。」

「え?」

晋「お前は・・・まぁ、お前らしいと言えばそれまでだが。」

「は・・・」






チラッとこっちを見てすぐに缶へと視線を戻す晋。

そして缶を数回揺らしたかと思えば、今度はテーブルに置いてあったリモコンに手を伸ばし


ピッ


なぜかテレビをオンにしやがった。






「・・・・・・。」

晋「・・・・・・。」






始まったのはバラエティー番組。

そしてそれを無表情で見つめる晋。

・・・なにこれ。

どう反応すればいいか分からないんですけど。






(・・・・・・・・。)






でも・・・

でもなんとなく






緊張が解けたような

ホッと安心したかのような






そんな穏やかな表情になった気がするのは気のせいだろうか。






「あれ・・・でもなんでお前、T大付属病院に勤務してるんだ?」

晋「なんでって・・・」

「親父さんの病院で働かないのか?」

晋「・・・・・・。」

「あ、もしや実家の世話にはなりたくねぇ!ってやつ?」

晋「・・・・・・。」






それともアレか?

外の世界を見て来い!なんて言われて修行中とか?






(・・・あれ。)






なんか-----晋の空気が変わった。






ような気がする。






怒ってるわけではない。






でも空気がピンと張ったような・・・






「あ、あの・・・晋、くん・・・?」

晋「-----------。」






返事がない。

え、ちょっと待って。

これって-----今度こそ地雷踏んだ?






『いるよねぇ、ポコポコ地雷踏む人。きっと地雷センサーでもついてんだよ。』

『ま、踏んじゃうものは仕方ないしね。そんな時はサラッと話題を変えて乗り切るべし。』

『え、マジ?私はさっさと謝るべきだと思うけど。』

『あ、それ賛成。タイミング逃すとその後の空気が苦しすぎますもんね。』






なぜかバラエティー番組と状況がリンクする。

でもありがとう。

大変参考になりました!






「あ、あのあの-----変なこと聞いたならごめん!今のは忘れて--」

晋「親父のとこには、兄がいる。」

「・・・へ?」






(・・・あ、あに?)






アニ、ANI・・・

あ、もしかして、兄?







晋「・・・俺は、厄介者だからな。」

「え?」







(や、厄介者・・・?)






さっきと一変。

今度は冷たい表情で視線を落とす晋。






(え、と・・・)






それって----

兄貴との仲が上手くいってないってことか?



弟を厄介者扱いする兄。



うーん・・・想像ができない。

私も弟の司とケンカすることはある。

でも「生意気なヤツめ!」と思うことはあっても「この厄介者!」だなんて本気で思うことはない。



あ、もしかしてあれかな。

病院の後継問題でトラブってるとか?

お前がいると俺の出世の邪魔なんだよ!みたいな?

なるほどドラマとかでよくあるパターンだ。





いやいや待て待て。

跡継ぎ問題はちょっと置いといて・・・






「お前・・・兄ちゃんいたんだな。」

晋「・・・は?」

「意外だ。」

晋「・・・そうか?」

「すごく。」






マジでビックリ。

だってこいつのGoGo俺様っぷりから想像すると・・・

①両親にでれでれに甘やかされて育った一人っ子

②お姉ちゃんズによる溺愛で出来上がった末っ子

このどちらかだろうと勝手に決めつけてた。



それが-----まさかの兄貴登場。



気にならないわけがない!






「一体どんな兄ちゃんなんだ?」

晋「・・・・・・。」

「お前と似てんの?色男系?それともまさかのカワイイ系だったり?」

晋「・・・・・・。」






ヤバい。

妄想が止まらない。






晋「・・・今日はヤケに質問が多いな。」

「え?」






そ、そう?






晋「ようやく、俺に興味が湧いてきたか?」

「は・・・」






(え------)






数秒前までの重い空気はどこへやら。






足を組み背もたれに腕を回し

まるで顔を覗き込むように視線を奪い取る晋。






目を細め、口角をキュッと上げて






そしてその視線は---






寒気がするほどに、色っぽい・・・








「・・・別に興味が湧いたわけじゃない。単純に気になっただけだ。」








ま、今更お前の色気に呑まれたりはしない。

疑問に思ったら聞きたくなる。

人間てのはそんなもんだろ?






晋「つまんねぇな。」






クスっと笑いながら離れていく晋。

悪かったな、期待に応えられなくて。


ていうか---






(・・・はぐらかされた?)






どうやら話を逸らされたらしい。

兄ちゃんに関しては答えたくないみたいだな。


まぁでも、有名大病院院長のイケメン兄弟(多分)による後継問題(多分)。

興味津々!

とまでは言わないが・・・

普通に気になるよな。な?

ま、これ以上は聞かないけど。






(興味、ねぇ・・・)







「そういうお前はどうなんだよ。」

晋「あ?」

「初めて会ってから半年近くか?どうだ、少しは私に興味が湧いたか?」

晋「は…」






質問には質問を、ってわけじゃないけど。

壮絶な出会いからしばらく・・・

こいつは私のことを「知りたい」と思ったりするんだろうか。






晋「・・・・・・。」

「・・・・・・。」






・・・ま、それはないか。






「ごめんごめん今の無し。」

晋「----------。」

「そもそも興味を持たれるほど深い人間じゃないですからね自分。」

晋「・・・・・・。」

「ていうかさ、晋って誰かに興味持つこととかあんの?基本的に他人に興味なさそうだよなお前。」

晋「・・・・・・。」






いやでも待てよ・・・

案外好きな女にはあれこれ聞いちゃうタイプだったりして。






晋「・・・ある。」

「ん?」

晋「興味なら、ある。」






へ?






晋「いいのか?」

「え?」





晋「お前のこと、聞いてもいいのか?」

「-----え」








思わず、持っていた缶を握りしめた。








投げられたのは

相手を気遣う遠慮がちな言葉。







でも







(-----っ!)








言葉とはまるで正反対。






正に「逃がさねぇ」とでも言うような






ギラリと光る、真っすぐな視線を向けられた。






反らしたいのに反らせない。






逃げ出したいのに






逃げられない---








晋「聞いて、いいのか?」

「----っ」








---何を?








そう答えたらいけない。

そんな気がする。







考えすぎかもしれない。

勘違いかもしれない。







でも、こいつが聞こうとしてることって----








晋「・・・・・・。」

「----------。」

晋「・・・悪い。」

「・・・っ、」

晋「今のは、無しだ。」

「-----え?」






な----






(な、に---?)






なぜかがっつり掴まれていた視線が解放される。

そして臨戦態勢は終了とでも言うように

ポン、と頭を撫でられた。







晋「・・・誰でも聞かれたくねぇことくらいある。」

「------!」







ぼそっと呟くように吐かれた言葉。






聞こえるか聞こえないか分からないくらいの声。






そんな小さな声に






ドン、と背中を叩かれたような気がした。






私に言ったのか

それとも独り言だったのか

それは分からない。






でも今のは-----アレだ。






話を続けるのが面倒になったとか

それこそ私に興味がないからだとか

きっと、そんなんじゃない。






先を聞かないでいてくれたのは---






こいつの・・・










優しさだ。