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「---っ!?」
忍の指先が頬に触れる···
正にその時
まるでヤツの手から救い出すかのように
後からグイ、と腕を引かれた。
「ぅ、あ-----ぶっ!」
助かった、と安堵したのも一瞬。
予想外のことに盛大に体がふらつく。
そして引っ張られるまま視界がぐるんと反転。
更には真っ白な何かに顔から激突--
晋「・・・悪いが、今日は先約がある。」
・・・え?
司「えっ」
岡「晋さん?」
忍「・・・。」
頭上から降ってきた声の主は-----
晋。
どうやらヤツに腕を引かれ、そのまま白衣に突っ込んでしまったらしい。
「ご、ごめん---」
日本人の悪い癖だ。
自分が悪い訳では無いのにとりあえず謝ってしまうのはなぜだろう。
いやいやそんなことより今はこの状況だ。
まるで私が晋に抱きついちゃったかのような嬉しくない体勢···
もちろん急いでヤツの胸を押し返し--
「---ぅ、ぶっ!?」
・・・なんでだ。
待て、とでも言うように腕を引かれ再び白衣に衝突。
地味に鼻が痛い。
司「せ、先約って、晋さんが透とですか?」
晋「俺もそうだが・・・今日は-----親父も一緒だ。」
司「え。」
岡「た、高原教授も?なな、なんで---!」
晋「まぁ・・・・・・アレだ。・・・食事でもと思ってな。」
司・岡「え!」
へ・・・
司「···おお、親父さんも一緒にお食事!?」
岡「え!ウソ!そそ、それってまさか---!」
晋「・・・お前らのことが分かってれば日を改めたんだが。親父もなかなか時間が空いてなくてな。」
司「親父さんも一緒に···」
晋「そういうわけだ。悪いが今日は勘弁してやってくれ。」
(ちょ、ちょっと・・・)
一体なんの話だ?
ひとまず晋を見上げて説明を求める。
が、なぜか視線が交わらない。
(------!)
更に何の意図か···
目を合わせないまま、未だ腕を掴む手にグッと力が篭った。
司「そんな、まさか---晋さんと透が?あの晋さんとうちの透が!?」
岡「はっ!もしや透さんって----あの時晋さんを寝不足に追い込んだ幻の!?」
晋「久々に会ったみたいだが、悪かったな四宮。」
忍「・・・いえ。」
なぜか色めき立つ司と岡野。
晋の親父との食事ってのはそんなに大騒ぎすることなのか?
・・・良く分からない。
それにしても晋のヤツ···
一体どういうつもりだ?
まぁ···私にとっては大歓迎なラッキーハプニング。
忍から逃げることが出来るならなんだっていい。
パパだろうがおじい様だろうが何にでも付き合ってやる。
だが・・・親父と食事なんて話一言も聞いてない。
もしや誘った相手を間違えてるんじゃ--
忍「あの、1つ聞いてもいいですか?」
晋「なんだ。」
忍「高原さんと透って-----一体どういう関係なんですか?」
(------っ···!)
司「し、忍?」
岡「し、四宮さん?」
まるで灼熱と極寒。
ヒートする司と岡野の熱を一瞬で凍らせるような
そんな温度のない声が背中にぶつかってきた。
晋「どんな関係、ねぇ・・・」
忍「・・・・・・。」
晋「さぁ、どうなんだろうな。」
忍「・・・・・・。」
チラリとこちらに視線を寄越し
軽く笑みを浮かべて応える晋。
後にいる忍の様子は-----
分からない。
忍「・・・・・・。」
晋「・・・。」
ズン、と訪れる沈黙。
まるで刃物に取り囲まれているような···
肌に触れる空気がピリピリ痛い。
忍「・・・まぁ、予定が入ってるなら仕方ないですよね。」
晋「------。」
忍「急だったし、今回は諦めます。」
え---
え-----!
忍「でも-----今度会った時は覚悟しててね、透。」
「----っ!」
冗談を含ませた軽い口調。
でもそこには明らかに
激しい怒りが潜んでいて--
司「ま、まぁさすがに今日は仕方ないよな。」
岡「そ、そうだよ!なんて言っても高原教授だもんな!」
司「ていうかお前ももったいぶるなよ透。まさかこんなことになってるとは思わなかったっていうか···」
岡「晋さんもですよー!俺、寝不足の晋さん見てるの辛かったんですからね!」
(ヤ、ヤバイ----)
無意識に身体が震え出す。
未だ晋にくっついたままの体勢。
きっと震えが伝わってる--
気付かれたくない。
なのに体が動かない。
いい加減手を離せと言いたいのに---
声も出ない。
晋「・・・おい日下、メシまだだろ?」
司「え、あ、はい。」
晋「先に食堂行ってろ。俺はこいつをそこまで送ってくる。」
司「え!あ、よ、宜しくお願いします!」
岡「かー!晋さんやっぱカッコイイー!」
四宮もまたな、と声をかけて歩き出す晋。
私はというと---
なんて不甲斐ない。
「----っ、---」
正にされるがまま。
掴まれた腕に引きずられるように晋の後を追う。
忍「透。」
「-----っ!」
忍「・・・またね。」
「-----。」
または、ない
そう言ってしまいたい。
でも---
「・・・あぁ。」
簡単に切ってしまえる縁なら喜んでぶち切ってる。
きっと···コイツは分かってるんだ。
私がソレを切れないことも
私がソレを切らないことも
---またね
アイツの言葉が頭に響く。
そしてまるで意思を持った鎖のように
ジャラジャラと体に絡みついたような気がした。
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