reason

reason 02 ~ GAME





晋「で?」

「・・・なに。」

晋「こんなとこでコソコソ何やってた?」

「べ、べつにコソコソなんか--」

晋「正直に言え。」

「だから--」

晋「まさかお前・・・俺に会いに来たのか?」

「はぁ?」







現在地は出入り口にほど近いエントランスの端。

ちょうどお昼時だからか、すぐそばを人が行ったり来たりと大忙しだ。






そんな人気も多い目立つ場所で

私は一体何をやってるかというと・・・






「なに勘違いしてんだ!病院って言ったら健康診断に決まってんだろ!」

晋「見え透いたウソつくな。」

「ほんとだって---ちょっ、近づくな!」






真っ白ピカピカな壁を背に

イケメンドクターに追い詰められていたりする。






「あぁ、くそ・・・一体なんでこんなことに!」

晋「は?」

「もう二度とこの病院は利用できない。」

晋「なんで。」

「お前のせいだよ!」

晋「意味分かんねぇ。」






軽く小首を傾げる晋。
そんな仕草も男前ですね。



じゃなくて!






「おいコラ---手ェ放せ。」

晋「放したら逃げるだろお前。」

「・・・まぁ否定はしない。いやいやそうじゃなくて---!」






刺さるのだ、視線が。

さっきの受付から身を乗り出したキュートお嬢さん達がこっち見てる。

すんごい目でこっち見てる!










---1分前










晋「こんなとこで何やってんだ。」

「いいいやいや別に大したことじゃ!ごご、ご心配なくドクター!」

晋「・・・ドクター?」

「おっといけないもうこんな時間!それじゃ私はこれで!」

晋「待て透。ちょっと来い。」

「え!?」

『た、高原先生っ!?』

『ウソ!ヤダ!そんなぁ!』






強行逃亡を図るも空しく・・・
気付けば腕をがっしりホールド。

そしてあれよあれよという間にここまで引きずられてきた次第である。



もちろん受付は大爆発。

誰だあの女!から始まり私の高原先生に触るなんて許せない!に至るまで様々なお声を頂いた。

でも違うよ皆さん良く見て。

断じて触ってませんから自分!






「あーもう・・・マジでここには二度と来れない。風邪こじらせたらどこにお世話になればいいんだよ。」

晋「風邪くらい俺が診てやる。」

「全力で拒否。」

晋「・・・・・・。」






遠慮なく突き刺さる鋭い視線
あからさまに聞こえる悲鳴

受付女子に目の敵にされるなんて・・・

ある意味出入り禁止宣言されたようなもんだ。






(チッ・・・)






目の前のドクターを睨みあげる。


スラリとした長身にサラリとした黒髪

キュッと引き締まった口元と、切れ長の眼には素敵メガネ


会うのは1ヶ月ぶりくらいだろうか。

相変わらずのイケメンっぷりに思わず舌打ちしてやりたくなる。






「まったく・・・期待を裏切らずモテモテなんですねぇ高原先生は。キュートな受付嬢から美人ナースまで女子の心を鷲掴みってか!今日は一体どの子と火遊びの予定なんすかねぇ?」






思い切りイヤミ混じりにヤツの腕を突ついてやる。


ま、こうなってしまったものは仕方がない。

となればモテモテ高原先生をいじってこの鬱憤を晴らそうと思う。






晋「おい透、今夜飯に付き合え。」

「・・・話聞けよ。」






挑発に全く反応しないとは・・・

久々に会ったがさすが俺様。

相変わらずのゴーイングマイウェイっぷり。






晋「騒がれるのはいつものことだ。ちなみに最近火遊びはしてねぇ。そんなことより今夜付き合え。」

「・・・ご丁寧にお返事ありがとう。ちなみに夜は付き合わない。」

晋「なんで。」

「なんでって・・・お前と遊んでる暇はない。」






ていうか現在進行でお前とおしゃべりしてる時間もない。

早く会社に向かわないと昼休憩が終わっちまう。






晋「辰巳の会社との企画も一段落したんだろ?」

「した。けど暇になったわけじゃない。忙しいんだよ私は。」

晋「・・・・・・。」






きゅっと眉根を寄せて不機嫌オーラをビシビシ飛ばしてくる晋。

まぁその反応も仕方が無い。
ここ最近ずーっと誘いを断ってるからな。

だが許せ。

仕事は落ち着いたがプライベートが崖っぷちなんだよ。






晋「てめぇ、俺を一カ月も放っておいて・・・」

「・・・は?」

晋「それに---約束は?」

「へ?」

晋「飯作るって約束した。」

「え。」






飯を作る?

私が、お前にか?






「バカ言うな。そんな約束してない。」

晋「した。」

「してない。」

晋「した。」

「・・・。」






しつこいヤローだな。

そもそもお前に手料理をこさえてやるなんて

そんな約束するはずが









(・・・ん?)










from 高原晋
--------------
腹減った。
--------------


>>なんか食えよ。



from 高原晋
--------------
飯に付き合え。
--------------


>>今度な。



from 高原晋
--------------
今度ならお前が作れ。
--------------


>>今度な。









(・・・・・・・・・。)









した。

確かにそんなやり取りをした---覚えがある。


え・・・ていうかコレ?

このドクターが言ってる約束ってコレのこと?






晋「飯作れ。」

「-----今度な。」

晋「それはこの前聞いた。」

「い、いやいやちょっと待て。あんなの約束のうちに入らない--そもそも今日は無理だろ。」

晋「なんで。」

「なんでって急すぎるし。明日仕事だし。」






お前に飯なんか作ってやってる場合じゃないし。

何より面倒くさいし。






晋「俺は休みだ。」

「えーいいなぁ、羨ましい。じゃなくて!お前が休みでも私は仕事なんだよ!」

晋「ふんばれ。」

「・・・・・・。」





ふざけんな。





「ていうか今思い出した。今日は香織の家にお邪魔することになってんだ。」

晋「香織?」

「お前を晋ちゃん呼びするかわい子ちゃんだよ。」

晋「・・・あぁ」






そう、今日は香織宅にのんびりお泊りなのだ。

よって格安ホテルを探し回る必要も無い。






「それにお前に飯作りたい女子なんて腐るほどいるだろ。こう見えて私はあんまり料理が得意じゃない。だから飯ならその子達に作ってもらった方が--」

晋「嫌だ。」

「・・・あのなぁ」






飯なんて腹に入ればどれも同じだろ?

私にこだわる理由がさっぱり分からない。



はぁ、とため息をオプションになかなか引かない晋を睨み上げる。

もちろん3倍返しで睨み返された。






ま、どんなに睨まれようが無理なもんは無理。

ここは大人しく諦めて---










晋「・・・約束、破るのか?」










・・・え








晋「お前、約束の一つも守れねぇのか?」

「へ・・・」


晋「とんだヘタレだな。」

「・・・・・・。」







(---なんですと?)






はぁ、とため息を落とし後に下がる晋。

そして腕を組み顎を引き上から見下ろしてくる。


ていうか---






(・・・ヘタレ、だと?)






ふ、ふざけんなよ貴様。

まぁ確かに約束の一つも守れないようなヤツは私もヘタレだと思うけれども・・・

でもそれとこれとは話が違---






「・・・・・・。」

晋「・・・・・・。」






(く、苦しい・・・)






場所が場所だからか
こいつがこんな格好してるからか

この状況・・・

なんだかリアル先生に怒られてるような気がしてならない。






「あ、あ、あの、晋。約束は---守る。ちゃんと守るからさ。」

晋「・・・・・・。」

「でもやっぱり今日は勘弁--」


『あ、晋さん!』







晋の重圧に押しつぶされる寸前







不意にヤツの後から男の声が飛んできた。







『おい岡野、声がでかい。』

『え、ほんと?ごめんごめん。だってやっと晋さん発見したからさ。もー俺、腹減って腹減って!』






聞こえた声は2つ。

ドクター仲間だろうか。

晋が邪魔で良く見えないが、同じように白衣を着た二人組がこっちに近づいてくる。






ていうかこの展開は






逃げるチャンスなのでは!?






「し、晋、呼ばれてるぞ?」

晋「気にするな。」

「いやいやそういうわけにはいかないだろ。お前も忙しいみたいだし・・・飯の話はまた今度ということで--」

晋「別に忙しくねぇ。どうせ昼飯の誘いだ。」

「だったら尚更行ってやれよ。せっかく誘ってくれてんだから--」

『晋さんこんなとこにいたんすね!探したんすよー!お昼食べに行き----むがっ!』

『あ、すみません晋さん。お話し中だったんですね。』






晋の後からひょっこり現れた男二人。

一人は可愛らしい感じの今時ボーイ。

恐らく晋が邪魔で私が見えなかったんだろう。

私に気付いたもう一人の長身男にガシッっと口を塞がれた。






『むー!むー!』

『邪魔してすみません。。俺ら、先に食堂行っときますね。』

晋「あぁ。」






ほう、やるじゃないか君。

一瞬で状況を把握し、暴れる今時ボーイを拘束したままこそっと晋に耳打ちする長身男。

なかなか空気を読むのがお早いようで--





いやいや関心してる場合じゃなくて!






「ちょ、ちょっと待ってよお兄さん!話はとっくに終わったんで!どうぞ遠慮なくこのドクターも一緒に連れてって--」

『いえいえお気遣いなく。お邪魔してすみませんでした-----って、お前-----



 透?』



「へ!?」







こいつも連れてけ!

と必死にアピールするとなぜか呼ばれる名前。







反射で長身男を見上げると







「うげっ---!!」

『やっぱお前-----透!』

「つつ、司!」

晋「?」






バチッと目が合ったのは本日最も会いたくなかった男。

マイブラザー司。






(マ、マジかよ・・・!)






まさかの遭遇にガチで腰が抜けそうになる。






どうやら・・・







今日の私はとことんツイてないらしい。