予感

予感 07 ~GAME






『えー!うそっ!日下さん来れないんですか!?』

「す、すみません。」

『そんなぁ!ほんの一瞬でもいいんで!ちょっとだけ付き合って下さいよ!』

「え、えぇ---と・・・」







現在午後22時20分。

長かった親睦会も無事終了。

皆さん、本当に本当にお疲れさんでした。




そして現在地はホテルの1階ロビー。

お手洗いと同様、床も天井もピカピカな様はさすがは高級ホテルと言える。


だが、その高級な雰囲気をぶち壊すかのように
ロビーは帰りを急ぐS、K両社員でざわざわしている。







そしてそんなさっさと帰ろうムードの中







私は一体なにをやってるかというと・・








『日下さんお願いします!』

『更なる親睦を兼ねて!ね!一緒に飲みに行きましょ!』

「あ、あああのあの---」







目の前には「K社営業課」のネームプレートを付けた女子が3人。


そう・・・

敵にだけは回すなと陰で恐れられる最恐営業課。

そこに所属する最強女子達に飲みに行くぞと脅され

いえ、間違えました。
それはそれは親切に飲みに誘っていただいています。







部「モテモテだなぁ日下。せっかくだ、行ってきたらどうだ?」

「え!ちょっと部長--!」

『そうですよぉ!行きましょ行きましょ!』

「いえ、その・・・すみません。行きたいのはやまやまなんですが実はまだ仕事が残ってて--」

「「えぇー!」」

部「仕事?何か残ってたか?」

「・・・の、残ってるんです。」






部長め余計なことを・・・

これからこの子達と飲みに行けだと?

バカ言うな。
体力の限界です。







ちなみになぜこんなことになってるかというと

原因はもちろん・・






『そんなぁ!日下さんが来てくれないと困ります!』

『そうですよ!日下さんが来ないと進藤さんが参加しにくいじゃないですか!』

松「お前らなぁ・・・」

「・・・・・・・・。」






どうやら彼女らは

私を口実に辰巳さんを飲み会に誘いたいらしい。






(勘弁してくれよー・・・)






親睦会も無事に終了。
部長、辰巳さん、木戸さんとの反省会も終了。

そしてやっと帰れるー!とガッツポーズを入れたところで彼女らに声を掛けられたわけだが・・・



このやりとり、かれこれ15分は続いているのだ。



変態なら煮るなり焼くなりどうぞご自由に。

でも私は勘弁してください。
疲労と眠気でリアルに倒れそうです。






『じゃぁ日下さんは残念ですけど・・・どうですか進藤さん!一緒に飲みに行きませんかっ!』

『親睦会の延長だと思って!ね!行きましょ!』

辰「え!」






(た、助かった・・・!)





ターゲット変更。
どうやら直接誘い落とす作戦に出たらしい。

頑張れ変態・・・後は頼んだ!






辰「え、えと、あの・・・も、申し訳ありませんが僕も仕事が残ってるので・・・」

『えぇーー!仕事なんて明日やればいいじゃないですかぁ!』

『そうですよー!』

下「み、みんな落ち着いて!進藤さんは忙しいんだから!無理言っちゃダメだよ!」

上「そうだそうだ!進藤さんはお前らみたいに暇じゃないんだぞ!」

『上田は黙ってて!』

上「ひぃっ・・!」

木「------。」

辰「・・・・・・。」






(こ、怖ェェ・・)






怯える上田
固まる木戸
そして言葉を失う変態


ちなみにいつの間に合流してたんだろう上下コンビ。

変態の救出に飛び込んだみたいだが瞬殺。
悲しいかな営業課の精鋭部隊を前に成す術なし。






『出来るだけ早めに切り上げますから!せっかくだから一緒に行きましょ?ね?ね!』

辰「え、え、え---と・・」

『はい時間切れ!進藤さん参加けってーい!』

辰「え、えぇ・・・」






可哀想に・・・
迫力に押されジリジリと後ずさる辰巳さん。

しかも飲み会参加決定。
もはやどんまい!以外に掛けてやる言葉が見つからな









(あ・・・)









-----マズい。










変態と目が合ってしまった。










『そうと決まれば!行きましょ進藤さん!』

辰「い、いや、ちょっと・・」



「・・・・・・あの、すみません皆さん。」









あー、もう・・









「申し訳ないんですがどうしても進藤さんに手伝ってもらわないといけないことがあるので・・・今日のところは勘弁してあげてください。」

辰「えっ」

部「え。」

上・下「え!」

「「「ええぇーー!」」」






営業課の皆さん本当にすみません。

でも辰巳さんの目がマジで助けを求めてたので・・・

まぁこいつも相当疲れてるだろうし
私もさっさと解放されたいし

感謝しろよ変態。
今回だけは仕事仲間として助けてやる。






「というわけで、そろそろ行きましょうか部長。それに進藤さんも--」

部「そうか・・・なるほど、そういうことか・・・!」

上・下「日下さん、やっぱり---!」

「へ?」






さぁて今度こそ帰るぞと合図を送ったところ何がなるほどなのかうんうん頷き出す部長。

そして上下コンビはキラキラと目を輝かせだした。

・・・意味が分からない。






部「よーし分かった!お前ら、今日は俺がつき合ってやろう!」

「え、部長行くんですか?」

部「おぉ!」

『えぇ・・・松田部長は別に--』

上「部長!僕もお供します!」

下「私も!」

『あんたらは来なくていいから!』






飲み足りなかったんだろうか。

あんなに帰りたがってたのに急に参加する気になったらしい部長。

元気だねぇ。
私は行かないけど。






部「それじゃお前ら・・・行くぞ!」

上「イエッサー!ほらほら君達も急いで!」

『えぇ!?でも・・・!』

『ちょ---!まだ進藤さんが!』

下「木戸さんも早く!行きますよっ!」

木「え!」

辰「え。」

「え。」






まるで訓練を積み重ねてきたかのような連携プレーで女子たちを誘導する3人。

そしてなぜだろう。

木戸まで引っ張って行こうとする。






「あ、あのちょっと待って。木戸さんは--」






(え---)






ふと、女子達の背中を押す部長がこっちを振り返った。

そして例のごとくカッ!と親指を立てたかと思ったら・・

なぜだ








バチッとウインクを飛ばしてきやがった。








(・・・・・。)







なんか・・・
すごく嫌な予感がするんですけど。







部「じゃあな日下!こっちのことは気にするな!上手くやれよ!」

上「日下さんファイトー!」

下「悔しいけど応援してます!頑張ってください!」








・・・・・・意味が分かりません。









木「辰巳さん日下さんっ---助けてくださ--!」







そして木戸の悲痛な叫びは途中で遮られ







上『あ!そのタクシー乗りまーす!』







元気すぎる上田の声を最後に

飲み会メンバーは嵐のようにホテルの外へと消えていった。