BAR・Black Part1

BAR・Black Part1 / 6 SAKURA∞SAKU first



---やばい!






見事に顔にそう書いてある。






だがそんなのに構う必要はねぇ。

たまたま空いてた有希の隣の席。

荷物を置いて座り込んだ。






有「あ、あれぇ?誰この人。累の知り合いか?」

「・・・・・・・・・・。」






こいつ・・・






仁「ええええぇ!ちょちょちょっと有希さんっ!?」






店員が焦る。

そうだコレが普通の反応だ。

お前も少しは焦ってみろ。






有「だだだって知らねぇもんなぁ。そうだろ、累。」






微妙に言葉をどもらせる有希。

どうやら少しは焦ってはいるらしい。






累「なんだよ孝。邪魔して悪かったな。早く彼女のとこに戻りなよ。」






彼女?






有「そそそそそうだぞ!あんな出るとこ出てるいい女なかなか手に入るもんじゃねぇぞ!早く戻ってやれ!」






出るとこ出てるって・・・

オヤジかお前は。






「今日は止めた。そんな気分じゃねぇ。」






正直な気持ちだ。

あの女と今からって気分じゃない。






有「バ、バカ!彼女なんだろ!?もっと大切にしてやれよ!可哀相じゃねぇか!!」






彼女?

彼女って・・・






「バカはお前だ。さっきの女は彼女じゃねぇよ。」

有「・・・累もお前も、なんでそんな嘘をつくんだ?」

「は・・・?」






嘘?

一体なんのことだ。






有「ちょ・・・・孝様。 マジで早くあっちに戻れよ。」

「なんで。」

有「だって彼女がこっち見てる!勘違いされるじゃねぇか!美人さんに睨まれるとどうしたらいいか分かんなくなる!」

「・・・?」






さっきまで座っていた席を気にして挙動不審になる有希。

釣られて女に目をやると・・・


確かに有希を見ている。

見てるっていうか・・・

睨んでるなあれは。

どうやら確かに勘違いしてるようだ。






有「あのさ、見てたのは謝る。だからほら早く行け。」






大きなため息を一つ。

そして犬を追いやるような仕草を寄こす有希。

すげぇムカつくのは気のせいじゃない。






「だから、あいつは彼女じゃねぇって言ってんだろ。今日は止めにしたんだ。それともなんだ?俺が隣で飲むのは気が進まねぇのか?」

有「うわっ!」






ムカツキついでに肩を引き寄せてやった。






そして・・・






髪をまとめてるせいで顕になった首元に顔を埋めてみる。







(・・・・・・・いい香りがする。)






さっきまでの思考がリピートする。



自分でも良く分からない不可思議な感情。

有希を見ていると湧いてくる奇妙な苛立ち。






そして







キスしてぇ・・・







(なんでこんな格好してやがる・・・・)






近くで見るとますます違和感を覚える女の有希。






外に出るときはいつもこうなのか?

だとしたら今後外で飲むのは禁止だな。

酔っぱらったナンパ男に持って行かれるのはいい気持ちがしない。






「・・・痛い。」

有「当たり前だ。抓ってるんだからな。」






肩を引き寄せた手を抓られた。

地味に痛い。






有「お前なぁ。彼女にヤキモチ妬かせるなら他の方法を選べよ。こういうのは反則だろ?」

「は?」






ヤキモチ妬かせる?

お前を使ってあの女にってことか?

バカ言うな。

そういうつもりは更々ない。






有「あっ!ほら!彼女怒って帰っちまうぞ!さっさと追いかけろ!」

「別にいい。」

有「良くねぇだろ!!ちょ、ちょっとお姉さん!!!」






帰ろうとする女を追いかけようと勢い良く立ち上がる有希。

そしてマジで追いかけようと走り出した。






「待て。」

有「----ぐぁ!!」






襟元を掴むと色気の無い声。

まぁ仕方が無い。

本気で前進してたところを止められたら誰だってそうなるだろう。






有「ゴホッ!!て、てめぇ何しやがる!ていうか早く行けよ!!」

「だから気にするなって言ってんだろうが。それにあの女も今頃他の男に連絡取ってる。」

有「は・・・・はぁ?」






ポカンと口を開き放心する有希。

この前キスした時も思ったが、こいつは男に慣れていない。

一夜限りの関係なんて理解出来ないタイプなんだろう。






有「・・・わけ分かんねぇ。」

「分からなくていい。」

有「・・・そうかよ。」






やっと諦めたか。

チッと舌打ちをかまし、しぶしぶ元の席に戻ってきた。






仁「え・・・な、なに・・・孝さんのことお前呼ばわり・・・しかも名前で・・・?」






突然、店員が意味不明なことを呟き出した。

どうした。

壊れたか?






有「何言ってんだお前。壊れたのか?」






有希が代弁する。






仁「だって・・・孝さんのこと名前で呼ぶ女の人、初めて見ました。」

有「へ・・・」






そう・・・・・・だったか?

名前で呼ばせてる女・・・

そういえばいないな。






有「・・・五十嵐君。」

「やめろ。気持ち悪い。」






ボソッと訂正する有希。

今更止めろ。

変な感じがする。






累「もー、なんだよ孝。せっかく有希とデートだったのに。いつもは気付いても近寄りもしないのにさ。」






女のこともやっと一件落着・・・

と思えば今度は累がふて腐れ出した。


ていうかデートってなんだよ。

まさか---

やっぱりお前ら・・・






有「こらこら累たん、誤解を招くようなことを言うな。」

累「誤解って---」

「孝様は医術は完璧だが常識に関しては緩んでるからな。多分・・・いや絶対誤解すると思うぞ。」

累「・・・・・・。」

「-----んだと。」

仁「あわわわわ!有希さん!」






俺の常識が緩んでるだと?

なんて失礼な女だ。

そもそもお前に常識を語られたくねぇ。






(チッ・・・)






こんな女にキスしたいだの抱きしめたいだの・・・

ある意味俺の頭はマジでどうかなっちまったんじゃねぇか?

常識の前にそっちを疑う。






有「いててててて!」






とりあえず、ムカついたんで頬を抓ってやった。