予感

予感 05 ~GAME





(えー、こんなとこで・・・)






仕事においてひがまれるのには慣れてる。
陰口たたかれるなんて日常茶飯事。

そういう世界で生きてるし「ひがまれて初めて一人前」って教えられてきたからね。




でも壁に耳あり障子に目あり。




誰がどこで何を聞いてるか分からないこの世の中。

場所くらいちゃんと選びなよそこの人たち。







いやいやそんなことより・・・







通れないんですけど。







(・・・ったく、もー。)







とりあえず壁に背中を預けた。


盗み聞きするつもりなのかって?
いやいやそんなわけないでしょ。

お手洗いへはこの角を曲がらないと行けないし
それにどんなこと言われるのか興味もあるし





仕方なく、そう仕方なくだ。





陰口大会が終わるまで待っててあげるとしよう。










なーんて思ったのが間違いだったんだろうか。











「あ、あの・・・」








(えっ・・)







聞こえてきた声に

背中がざわついた。







(透・・・ちゃん?)







聞こえてきたのは多分

透ちゃんの声。







(・・・・・。)







思わぬ展開に無意識に背筋が伸びる。

ついでに角の向こうを凝視してしまった。







(な、なんで・・・?)







角の向こうで開催されてる陰口大会。
そして透ちゃんがいるのも角の向こう。

つまりこれは・・・

透ちゃんが俺の陰口を---ってこと?






(それはまぁ-------ショックかも・・)






当然だろ。

お気に入りの女の子に陰口叩かれてヤな気分にならないヤツがいたらそいつはバカだ。





ていうか透ちゃん・・・

会場にいないと思ったらこんなとこで俺の陰口言ってたわけ?






(くっそー・・・)






透ちゃんめ・・・
今日はお仕置き決定ね。

泣こうが喚こうが絶対止めてやらない。
心を鬼にして虐め抜いてやる---!







「女癖の悪いやつだとは思ってたが・・・仕事ではそれなりに認めてた。」

透「・・・へ?」

「でもまさか・・・仕事に女を連れ込むとは思ってなかったよ。」







廊下に響く男の声。
これはさっき聞こえてきた声だな。

他の声が聞こえないけど・・・
二人で喋ってるわけ?


ていうか女を連れ込んだってなに。

意味が分からない。






「どうやってあいつに取り入った?」

透「と、取り・・・?」






え、取り入った・・?
なんのこと?






「あんたが作ったっていうあの企画書。あれ、進藤に頼んで作ってもらったんだろ?」

透「は・・」

「あんな斬新な企画・・・うちの連中でも簡単には作れないからな。」

透「え。」















え・・・







(え、と・・・?)







まさかのビックリ展開に頭が追い付かない。

てっきり陰口大会だとばかり思ってたけど
なんだか俺の勘違いだったっぽくない?

それどころかこれってもしかして・・・

透ちゃんが苛められてる感じ?






(・・・透ちゃん、ごめん。)






とりあえず心の中で謝罪。

コソコソ陰口叩きやがって!なんて疑ってごめんなさい。

そもそも透ちゃんは堂々と俺を足蹴にする女の子だもんね。




ていうか--







(誰だ・・・?)







透ちゃんと一緒にいる男。
話の内容から考えると多分S社の誰かだ。

そしてそいつは







激しく勘違いしている。







→あんたが作ったっていうあの企画書。あれ、進藤に頼んで作ってもらったんだろ?

悔しいけど違います。
このビック企画は透ちゃん作です。



→あんな斬新な企画・・・うちの連中でも簡単には作れないからな。

これって俺のこと褒めてるんだよな・・?
なんか・・・ありがとう、照れる。






じゃなくて!







(どう・・する・・・?)







思わず腕組み。



出来ることなら今すぐ助けに飛び出したい。

いわれのないことで透ちゃんを困らせたくないしたまにはカッコいいとこ見せときたいし






でも







今俺が出たら

確実に透ちゃんの立場が悪くなる。







庇うのは簡単。

だがこういう問題って意外とデリケートなもの。


「やっぱり進藤がいないと何もできないんだろお嬢さん」なんて思われたら・・・

困るのは当然透ちゃんだ。
仕事がやりにくくなってしまう。






(うーん・・・)






可哀想だけど
やはりここは見守るべきか・・?








「とにかく・・・ボロが出ないうちに白状した方がいいと思うけど。」

透「あ、あの・・・」

「じゃないと恥かくのはあんただよ。」

透「・・・・・・。」

「分かってないようだから忠告しておくけど。あんたじゃ進藤のパートナーは務まらない。」

透「・・・・・・。」







な---







(ちょ、おいおい・・)






いったい何様のつもりだよ君。

いくらなんでも失礼過ぎる。







(これは--ダメだ。)







止めていた足を大きく前に踏み出した。







前言撤回。

もはや「仕事が・・」なんて言ってる場合じゃない。

あんな酷いこと言われて・・
さすがの透ちゃんも泣いちゃってるかもしれない。





ていうか誰だよお前・・・





俺のカワイイ透ちゃんに散々言いやがって。

覚悟しろ。

その失礼な口、二度と開けないようにしてやる--!









透「確かにあのヤローの女癖は最低ですよね。」

「・・・・・・。」








さあ行くぞ!

と角を曲がろうとした、その時









透ちゃんの無情な声が

静かな廊下に響き渡った。