軽ノリすんな・杉浦

軽ノリすんな・杉浦—2 SAKURA∞SAKU first



「そ、それだけっすよ。」

杉「そんなはずはねぇ。」

「い、意味分かんな---」

杉「動くな。」

「は・・・は?」






対面ソファーに座ってる杉浦君。

なぜか長い足を優雅に組み解き---





立ち上がった。






「え、えぇー?もしやお出かけっすか?・・・じゃあ私もそろそろ準備しよっかなぁ。累を待たせるのも悪いし・・・」






(や、やばい・・・)






なんかヤバい。

マイセンサーが危険信号出してる。

良くないことが起こるぞって警告してる。

ここは---








逃げねば。








杉「動くな。」

「ひっ・・・!」






こ・・・怖ぇぇぇ!






なんか怖ぇよこいつ!

寝起きには絶対遭遇したくないタイプだ!






「あああのあの・・・!」

杉「・・・。」






ゆっくりこちらに近づいてくる杉浦真樹。

もちろん鋭い目線はそのままに・・・

これぞ正に---





野☆獣!






(ひ・・・っ)






逃げる間もなくとうとう隣に座ってきた杉浦君。

スプリングで体が跳ねたのか

マジでビクッとしたのかどっちか分からない。



ていうかなんで怒ってんのこいつ!

空気が痛いんですけど!





ソファー上での攻防。

近づいてくる奴に対しじりじりと後退する。






「えええ、えーと!なんで近づいてらっしゃるんすか!?」






落ち着け私!

そして慎重に言葉を選べ!

間違っても刺激を与えるな!






(うぉっ---!)






いつの間にかソファーの端。

低い肘掛に逃げ場を奪われる。






ど、どうしよう・・・






全力で走るか?

いやいやでも・・・

後が怖い。






「す、杉浦君、もう後がありません。君もそこでストップ--」

杉「あ?」

「・・・・・・・。」






(怖ぇぇーーーーー!)






ここここ殺される!

絶対殺る気だこいつ!!





どうする・・・・

どうするよ!?





やっぱ逃げた方が良くねぇ!?

部屋に立て篭もってこいつの怒りが冷めるまで--






「うわっ!」






手が伸びてきたかと思えば腰を強く引かれる。

そしてトン、と肩を押された。






「------っ!!」






一気に襲ってくる浮遊感。

このままじゃ落ち---







「ぎゃぁ!」







落ちた!!





と思ったら背中に軽い衝撃。

どうやらソファーに倒れ込んだらし






(------は!)






頭が床に激突しなかったことに安心したのもつかの間








「あ、あの・・・・・・何やってんすか、あんた。」








視界には高い高い天井と







黒い笑顔を浮かべる美人さん。







杉「お前、孝とキスしただろ。」

「は?」







なんだと思えば・・・

そういえばこいつも会話が出来ない奴だったな。






「してないっす!」






とりあえず否定。

何度も言うが昨日の二の舞はゴメンだからな。



ていうかなんで知ってんだ?

まさかあいつが話したのか?

『早速俺もやっちゃったぜー』みたいな!?






杉「お前、嘘つくのが下手だな。顔に出てる。」

「え!」






うう、うそマジで!?

嘘が下手なんて言われたことないけど・・・

思わず顔をペタペタ触ってみる。






杉「冗談だ。」

「へ・・・」

杉「だがキスしたのは事実だろ?女と密着して孝が何もしないわけがない。」

「・・・・・・・・・。」






あいつのことならなんでも分かる的なラブラブ宣言をぶちかます杉浦君。

なんだよお前ら。

仲が悪かったんじゃなかったのか?





いやいやそうじゃなくて!






「す、すみません嘘つきました。でもあれはキスじゃなくて事故・・・いや災害っすよ!甘酸っぱいもんじゃないっす!」






こうなったらもう必死だ!

下手にウソつかず!

素直に正直に!






杉「へぇ・・・」

「------!!」






ちょちょ、ちょっとー!

やめろやめろ顎を取るな!

何を考えてるんだこの男はっ!!






「い、いい加減にしてくれよ!初めに言っただろ!こういうことを軽くやってくれるな!!」






とにかく離れてくれ。

顎を掴む杉浦君の手首を締め上げた。






(え。)






ちょちょ、ちょっと・・・・






動かないんですけど!?






「くそ!放せこのっ!!」

杉「・・・・・。」






全・力・入・魂!!!

してるんですけどねっ!!







「---っ痛!」







鈍い痛みと共にソファーに手を押し付けられた。

美人さんのくせに・・・

こいつもやっぱり---


男だ。






「い、痛いんですけど。放せよ。」






手首がギリギリ軋む。

だが放してくれる気配は見えない。






(くそ・・・)






そもそもこいつは何に怒っているんだ?

もしかして暇つぶしか?

もしそうなら・・・





ふざけんじゃねぇぞー!






杉「俺のことは拒否ったくせに。あいつのは受け入れたんだな。」

「・・・・・は?」






受け入れたってなんだ。

何言ってんだこいつ。

めちゃめちゃ抵抗しましたってんだよ。

ていうか無視すんじゃねーよ!






「お前、激しく勘違いしてるぞ!昨日は不意をつかれたが・・・普通ならぶっ飛ばしてるところだ。」

真「・・・・・・・・・。」

「それにキスなんてあいつにとっては挨拶みたいなもんなんだろ?だから犬に噛まれた思って水に流してやったんだよ!」






流さずにいられるか。


大体、簡単にぶちかます奴らの気が知れねぇ。

ちゅーってのは神聖なもののはずだ。

ちゅーの後は心が『ふわふわ幸せ~』ってなるはずなんだ!

なのに昨日は二回とも鉄拳だぞ!?

有り得ねぇんだよ!