初体験

初体験—10 GAME







透「--んぅッ・・・んッ!」







柔らかい唇を貪るように奪う。







呼吸も許さない
逃げることも許さない







考える余裕なんて与えない







俺のことだけ考えていればいい。








透「待っ、てッ---!」







シーツに押し付け拘束している両手首。
その手を弱々しく動かして抵抗する透。





呼吸が整う前にキスしたからな。

恐らく苦しいんだろう。




だが---







透「---んッ---んぅッ・・!」







まだ離さない。

いや・・・







離してやることが出来ない。









透「晋ッ---苦、し---!」
「もう少し・・・」









今日の俺はどうかしてる。









別に女に飢えてるわけじゃない。
それなりにストレス発散出来てると思う。








なのに今の俺はどうだ。








もっと透に触れたくて
すぐにでも透を抱きたくて








欲望を抑えることが出来ない---









(あー、もうダメだ。)








本当はこんなはずじゃなかった。

透を家に連れて来るつもりも
まして抱くつもりなんて更々無かった。








ただ一瞬だけ会って、謝りたかった。









それだけだったのに---











一体何がどうしてこうなった?












そもそも事の発端は「あの日」

つまり透が慌てて逃げ帰った日だ。












透「おおおお邪魔しましたー!」






あの日の朝、透は昨晩の俺の素行に何一つ触れず

「すっとぼける」という名の下手な忘却演技をかまして家から飛び出していった。





追いかけることは出来た。
だが体が動かなかった。





なぜって、意外だったからだ。






『この最低エロ野獣!てめぇなんか大嫌いだ!二度と私に触るなよ!ていうか顔見せるな!!』






これくらいの非難は覚悟してた。
それだけのことをしてしまったのも事実。

なのに








透「な、なんでベッドに寝てたんだっけ?」
「・・・・・・。」







とぼけて・・・いるのか?

もしそうならなぜ?


右ストレートを予想していたのにまさかのボディーを食らった気分だ。

透の意図が全く読めない。






(・・・・・?)






起きたらすぐに謝ろうと思ってた。
だが意味不明な展開に思考が停止。

ショート寸前だ。







透「か、帰ろっかな・・・」
「は?」
透「いや、帰るわ。」
「・・・・・。」






放心する俺を無視して帰ると言い出した。

俺はというとやはり展開に着いていけず

(帰るってどこに?)なんて素っ頓狂なことまで考える始末。







透「じゃ、じゃぁな!」







本当に帰るつもりなのか。

ベッドから下りようと端へ移動する透。
そそくさと俺から離れていこうとする。








さすがに、行かせたらダメだと思った。








なぜならまだ謝って無い。








怖がらせた
怯えさせた

そして・・・泣かせてしまった。

謝っておかないと気が済まない。







「待て、透。」







とっさにヤツの手を掴んだ。





しかしすぐに後悔した。





また怖がらせるんじゃねぇか、そして手を振り払われるんじゃねぇかと思った。

2日連続で完全拒否されるのは正直辛い。






だが振り返った透に怯えは見られなかった。






引き止められるとは思ってなかったのか、ただ驚いているだけのように見えた。

しかし次の瞬間バツの悪そうな表情に変貌。
意味が分からない。









その後クッションを投げつけられた。

しかも思い切り。











そして再び、放心。










クッションを抱きながらしばらく透が出て行ったドアをボーっと凝視した。








「・・・・・・・・・・・。」








なんなんだあいつは・・・





なんで何も言わねぇ?
なんで俺を責めない?





責める価値もないってことか?
クッション投げつけられるほど嫌われたってことなのか?







「--------。」







まぁ・・・別に嫌われても構わねぇよ?

女なんて周りに腐るほどいるし、透なんて全く好みじゃねぇし。







「----------ふん。」








それに、所詮これはゲームだ。





勝って賞金が出るわけでもない。
負けて罰があるわけでもない。

つまり







透から手を引けば俺のゲームは終了。







ただそれだけのことだ。






辰巳や玲に負けるのは癪だが・・・
こうなってしまったからには仕方が無い。







「・・・はぁ。」







まぁ・・・とりあえず謝罪はしておこう。

スッキリしないのは気分が悪い。





そうと決まれば早い方がいい。





ノロノロとリビングに向かい携帯を掴む。

そして透への通話を押した。








「・・・・・・・・・・。」








いや、直前で押すのをやめた。




今呼び出しても拒否されるに決まってる。

今日は間が悪いと思う。

次の休みにでも呼び出すことにする。








---謝って、そして、ゲーム終了。








今後一切、透に関わることは無い。
あー、せいせいする。










そう思ってた。










「し、晋さん!?どうしたんすかその顔色!まだ眠れないんすか!?」
「うるせぇ岡本。ほっとけ。」
「岡野っすよー!」







①謝ってゲーム終了。
②透との縁も終了。
③あー、せいせいする。






そう思ってた。

それでいいと思ってた、はずなのに








なぜか眠れない。








理由は単純。







相変わらず、透が夢に出てくるからだ。







しかも今回のあいつはタチが悪い。









---晋、助けて








何も見えない暗闇の中

一人で怯えて震えて、そして助けを求めて涙を流す。

しかも俺の名前を呼びやがるときた。






そんな姿を見せ付けられて安眠できるか?

いや、出来ない。






おかげで平均睡眠時間は怒涛の2時間。
さすがの俺もリアルに死にそうだ。






(・・・チッ。)






こんな夢を見るのは多分謝って無いからだ。

恐らく罪悪感を刺激されてるんだろう。
優しい男だからな俺は。






とにかく、謝れば夢も見ないはず。






謝って、そして透とは終わる。









「あー、せいせいする・・・」













そう、思ってた。