まさかまさかの---?

まさかまさかの—?07 realReal



「あ、あの---西本?」
「迅。」
「え?」








「迅。そう呼べ。」








---ドクンッ!







心臓が、大きく鳴った。







(な、名前・・・?)







名前を、呼べって・・・







「あ、あの---」
「早く。」







目を合わせたまま促してくる。






その目は相変わらず真っ直ぐで






やっぱり、逸らすことが出来ない。






(え、え・・・っと---)






なんで?

なんで今更・・・

それに改めて呼べって言われると、ねぇ?

恥ずかしいというか緊張するというか・・・






(やや、やばい・・・)






なんかドキドキする



心臓が口から発射しそう








「呼べよ。」

「----ぇ・・・と・・」




















「彰。」





















「・・・・・。」









(な、なにそれ・・・)










もうダメだ。











心臓、止まる。


















「・・・・・・迅。」



















どこから出てきたんだろう。

我ながらなんて弱々しい声。





こいつもそう思ったのか。

クスクス笑ってやがる。






「もう一回。」
「な、何言ってんだ!もういいだろ!」
「ほら、早く。」
「え、あ、あー・・・」
「彰。」
「・・・・・・・・・・・・・迅。」





なんだよこれ・・・

まさか羞恥プレイのつもりか?





「よ、呼んでやったぞ!ほら!さっさと戻ろう!行くぞ!」
「イヤだ。」
「イヤじゃなくて---うわっ!」





立ち上がろうとしたら腕を引かれて地面にリターン。





そしてそのまま手を取られ・・・







「えっ、あのっ、ちょっ---!」







取られた手に







ゆっくり、ゆっくり







指が絡みついた。







(うう、うそだろー!)







一体こいつは何がしたいんだ。

まさか私をからかっているのか?





その前になんで私は焦ってるんだ。
なんでこんなにドキドキしてるんだ!






(た、助けてくれぇ---!)






もう何がなんだかさっぱり分からない。

黒田でもアラタでも誰でもいい!


誰か・・・




誰か助けてくれェ!!








「彰。」


「なな、なんだよまだ何かあるのかよ!ていうか手を・・・手を離せ---」




















「好きだ。」

















「えっ」

















体が、ビクッと跳ねた









そして全ての音が、消えた









下にはあんなに人がいるのに
うるさいくらい賑わってるのに









聞こえるのは完全に狂った自分の鼓動と











「好きだ、彰。」











心地よく響く、西本の声だけ。











「----------。」











高校生ってこんなんだったっけ



こんな・・・









こんなドキドキするもんだったっけ










(もう・・・ムリ・・・)








名前を呼んだり呼ばれたり

手を握ったり

好きだと言われたり





これじゃまるで・・・







「彰。」







まさに放心状態の私。

だがそんなのお構いなしにゆっくり近づいてくる西本。


そして








チュッ、と額にキスをした。








---カーン







なんか聞こえた。







終了のゴング的な音が。








(・・・・・終わった。)








第二の人生。

初っ端からいろいろ終わったような気がする。




高校生に翻弄されてる自分も
高校生にときめいてる自分も




なんかもう・・・

色々と終わったような気がする。









「顔真っ赤。」
「---っ!うるさい!」






よっぽど呆けていたんだろう。

クスクス笑いながら頬を撫でてくる西本。
顔を逸らすと今度は髪に触れてくる。





(やや、やめてー)





そろそろ本当にやめてくれ。

これ以上ドキドキしたらマジで鼓動が止まってしまう。






「返事は?」
「なんだ!」
「だから、返事。」
「返事---」





へ、返事!?





「返事ってなに!」
「好きの返事。」
「すす好きって---そりゃお前のことは好きだけど!」
「じゃあ恋人同士。」
「こっここここ!?」





なな、なに言っちゃってんのー!





「か、からかうもいい加減にしろ!それに前にも言ったぞ!私はガキに興味は無い!」





ちょっとマジで勘弁してー!

まさかこいつ・・・
私の秘密を忘れたわけじゃないだろうな!





「からかってなんかない。俺はお前が好きだ。お前は?」
「すっすす-- 好きだけどそういう意味じゃなくて!」
「そんな顔して、素直じゃないヤツ。」
「なっなななな!」





な、なんだよこいつ。
なんなのこいつ!

こんなに積極的なヤツだったっけ!?



いやいやそういう問題じゃなくて!





「すっ、素直も何も!私とお前の間には飛び越えられない大人の壁が---」
「年か?そんなの関係ない。」
「え!そそそんな---!」





なんなんだよお前!

大学のことはあんなに殻に閉じこもってたくせにこういうのはOKなのかよ!
ポジティブ思考なのかよ!





「まぁいい。」
「へ!」
「俺は目覚めたんだ。」
「は・・・」





な、なにに?









「絶対、逃がさないからな。」



「・・・・・・。」










まるで獲物をロックオンしたような雄の顔。






そして






どんどん顔が近づいてくる。






近づいて近づいて






20cm、10cm、5cm---









「いっいやーー!!もっ、もうやめてくれぇぇーー!!」
「あー!なにいちゃついてるんすかー!」







絶妙、まさに絶妙。



私の悲鳴とアラタの絶叫が見事にコラボした。

ナイス、ナイスタイミングだアラタ!





「チッ・・・」





ざざ残念だったな西本!





「おいおい邪魔するなよ。」
「だって黒田ーー!彰ちゃんが俺の迅さんに!!」
「はぁ?」





なんか間違ってるぞアラタ。




しかしそれに突っ込む余裕なんてない。





「はぁっ!はぁっ!」
「おい大丈夫か佐野。一体何があった?」
「きき、聞くな!」
「?」







とにかくただひたすら







心臓の鼓動を慰めた。








「せ、背中さすってくれ!」
「あ、ああ。」