「あ、あの---西本?」
「迅。」
「え?」
「迅。そう呼べ。」
---ドクンッ!
心臓が、大きく鳴った。
(な、名前・・・?)
名前を、呼べって・・・
「あ、あの---」
「早く。」
目を合わせたまま促してくる。
その目は相変わらず真っ直ぐで
やっぱり、逸らすことが出来ない。
(え、え・・・っと---)
なんで?
なんで今更・・・
それに改めて呼べって言われると、ねぇ?
恥ずかしいというか緊張するというか・・・
(やや、やばい・・・)
なんかドキドキする
心臓が口から発射しそう
「呼べよ。」
「----ぇ・・・と・・」
「彰。」
「・・・・・。」
(な、なにそれ・・・)
もうダメだ。
心臓、止まる。
「・・・・・・迅。」
どこから出てきたんだろう。
我ながらなんて弱々しい声。
こいつもそう思ったのか。
クスクス笑ってやがる。
「もう一回。」
「な、何言ってんだ!もういいだろ!」
「ほら、早く。」
「え、あ、あー・・・」
「彰。」
「・・・・・・・・・・・・・迅。」
なんだよこれ・・・
まさか羞恥プレイのつもりか?
「よ、呼んでやったぞ!ほら!さっさと戻ろう!行くぞ!」
「イヤだ。」
「イヤじゃなくて---うわっ!」
立ち上がろうとしたら腕を引かれて地面にリターン。
そしてそのまま手を取られ・・・
「えっ、あのっ、ちょっ---!」
取られた手に
ゆっくり、ゆっくり
指が絡みついた。
(うう、うそだろー!)
一体こいつは何がしたいんだ。
まさか私をからかっているのか?
その前になんで私は焦ってるんだ。
なんでこんなにドキドキしてるんだ!
(た、助けてくれぇ---!)
もう何がなんだかさっぱり分からない。
黒田でもアラタでも誰でもいい!
誰か・・・
誰か助けてくれェ!!
「彰。」
「なな、なんだよまだ何かあるのかよ!ていうか手を・・・手を離せ---」
「好きだ。」
「えっ」
体が、ビクッと跳ねた
そして全ての音が、消えた
下にはあんなに人がいるのに
うるさいくらい賑わってるのに
聞こえるのは完全に狂った自分の鼓動と
「好きだ、彰。」
心地よく響く、西本の声だけ。
「----------。」
高校生ってこんなんだったっけ
こんな・・・
こんなドキドキするもんだったっけ
(もう・・・ムリ・・・)
名前を呼んだり呼ばれたり
手を握ったり
好きだと言われたり
これじゃまるで・・・
「彰。」
まさに放心状態の私。
だがそんなのお構いなしにゆっくり近づいてくる西本。
そして
チュッ、と額にキスをした。
---カーン
なんか聞こえた。
終了のゴング的な音が。
(・・・・・終わった。)
第二の人生。
初っ端からいろいろ終わったような気がする。
高校生に翻弄されてる自分も
高校生にときめいてる自分も
なんかもう・・・
色々と終わったような気がする。
「顔真っ赤。」
「---っ!うるさい!」
よっぽど呆けていたんだろう。
クスクス笑いながら頬を撫でてくる西本。
顔を逸らすと今度は髪に触れてくる。
(やや、やめてー)
そろそろ本当にやめてくれ。
これ以上ドキドキしたらマジで鼓動が止まってしまう。
「返事は?」
「なんだ!」
「だから、返事。」
「返事---」
へ、返事!?
「返事ってなに!」
「好きの返事。」
「すす好きって---そりゃお前のことは好きだけど!」
「じゃあ恋人同士。」
「こっここここ!?」
なな、なに言っちゃってんのー!
「か、からかうもいい加減にしろ!それに前にも言ったぞ!私はガキに興味は無い!」
ちょっとマジで勘弁してー!
まさかこいつ・・・
私の秘密を忘れたわけじゃないだろうな!
「からかってなんかない。俺はお前が好きだ。お前は?」
「すっすす-- 好きだけどそういう意味じゃなくて!」
「そんな顔して、素直じゃないヤツ。」
「なっなななな!」
な、なんだよこいつ。
なんなのこいつ!
こんなに積極的なヤツだったっけ!?
いやいやそういう問題じゃなくて!
「すっ、素直も何も!私とお前の間には飛び越えられない大人の壁が---」
「年か?そんなの関係ない。」
「え!そそそんな---!」
なんなんだよお前!
大学のことはあんなに殻に閉じこもってたくせにこういうのはOKなのかよ!
ポジティブ思考なのかよ!
「まぁいい。」
「へ!」
「俺は目覚めたんだ。」
「は・・・」
な、なにに?
「絶対、逃がさないからな。」
「・・・・・・。」
まるで獲物をロックオンしたような雄の顔。
そして
どんどん顔が近づいてくる。
近づいて近づいて
20cm、10cm、5cm---
「いっいやーー!!もっ、もうやめてくれぇぇーー!!」
「あー!なにいちゃついてるんすかー!」
絶妙、まさに絶妙。
私の悲鳴とアラタの絶叫が見事にコラボした。
ナイス、ナイスタイミングだアラタ!
「チッ・・・」
ざざ残念だったな西本!
「おいおい邪魔するなよ。」
「だって黒田ーー!彰ちゃんが俺の迅さんに!!」
「はぁ?」
なんか間違ってるぞアラタ。
しかしそれに突っ込む余裕なんてない。
「はぁっ!はぁっ!」
「おい大丈夫か佐野。一体何があった?」
「きき、聞くな!」
「?」
とにかくただひたすら
心臓の鼓動を慰めた。
「せ、背中さすってくれ!」
「あ、ああ。」
まさかまさかの—?07 realReal
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