GAME

男友達—–4 GAME

「・・・・またかよ。」

 

シャワールームから出ると、なぜか自分の服が無くなっている。

確かに畳んでここに置いたはずだ。
なのに、無い。

 

「晋!」

 

返事なし。

 

「晋!!」

 

やっぱり返事なし。

 

「晋ちゃーぁん!!!」
晋「そこに置いてる。」
「・・・・・・・。」

 

聞こえてるんじゃないか。

 

「これじゃなくて!私の服はどこだ!」
晋「・・・・・・・・・・・・。」
「無視すんな!」
晋「・・・・・・・・・・・・。」

 

無視してる。
完璧無視してる。

 

「くそっ・・・」

 

さっきまで私の服が置いてあった場所に無造作に置かれている上下セット。
ま、どうみても男物なんですが・・・

 

「だから下着が無いっつーの。」

 

そのまま着ろと?
こう見えて一応メス属性なんですけどね。

 

「おーい晋ちゃん。私の服を返してくれよ・・・・って。ほう、練習ですか。」
晋「あー。」

 

とりあえず服を拝借してリビングへ。
晋はテレビの前に座り込み、ボーっと睨めっこしながらゲームに夢中になっていた。

ちなみに私の服は見当たらない。

 

「おい、私の服。」
晋「それでいいだろ。」
「とにかく下着を返せ。」
晋「どうせ脱がすんだ。そのままでいい。」
「・・・・・・・・・・ふざけんな。」
晋「こら・・・前に立つな。」

 

なかなか画面から目を離さないので目の前に立ってやった。

体を動かして画面を見ようとする晋。

バカな奴め。
ほんの数十分の練習で私を超えられるわけがなかろう。

 

「おいコラ。どこにやったんだよ。」
晋「ちょっと待て・・・これは・・・こうか。」
「早くしろよ。」
晋「よ・・・し。始めるぞ。」
「は・・・・・ぅわっ!」

 

ぎゅっと手を掴まれて引かれる。
思っても無い行動に体が素直に倒れていく。

 

「い・・・・ってぇ。」
晋「・・・お前、結構華奢なんだな。」
「一応女子なんで。ていうか離れろよ。」
晋「女なら少しは女らしい反応をしろ。」
「・・・・・・・キャー。晋チャン離レテ。」
晋「・・・全然心が篭ってねぇ。」

 

お決まりだよお決まり。

引っ張られたんで晋の上に倒れこんだ。
そして支えられた。

や、やだごめん!なんて可愛らしい反応でも期待してたのか。
悪いがこの年になって純粋な反応なんて冗談でも出来ない。

 

晋「髪、ちゃんと拭け。風邪引くぞ。」
「あぁ大丈夫。このくらいじゃ引かないよ。」
晋「・・・・・・・・・・・。」

 

体も丈夫だし、髪も短いし。

 

「ていうか服を---」
晋「勝負が先だ。」
「服が先に決まってんだろ。」
晋「お前が勝ったら返してやる。」
「・・・・・・・・。」

 

約束は守る、とのこと。

まぁ・・・いいだろう。

どっちにしてもお前が私に勝てる可能性は皆無。
つまり、0%だ!

 

「よーし。じゃぁ始めるか!」

 

なかなか離れない手をビシッと叩き落し、晋の隣に座り込む。
コントローラーを握りスタンバイOK。

 

「何回勝負にする?3回でいいか?」
晋「それでいい。」
「よっしゃ。ではでは-----勝負だ!!」

 

結果は見えてるけどな。

ひざまずけ俺様。

上には上がいることを思い知れ!

 

 

 

 

 

「ウソだぁぁぁぁーーーーーー!!」

 

 

 

 

誰の声----?

 

私の声だよ私の!!

 

「おおお前っ!実はプロだろ!素人面しやがってー!!」
晋「さっき初めてやった。」
「ウソつけー!!」
晋「ゲームなんて説明書見れば簡単だろ。それに・・・・・・」
「なんだよ!」
晋「お前、弱すぎ。」
「----んだとぉ!?」

 

3回勝負。
あっけなく2連敗。

現実を受け入れられずもう一度勝負を挑めばやはり敗北。

何度やっても同じ。
もはや・・・・・夢としか思えない!

 

「ていうかさっきのコンボはなんだよ!どうやったんだよ!」
晋「あれか?あれはな・・・・」
「へぇ!そんなのもあったんだ。ちょっと待て。じゃぁこれはこうやれば----おぉ!できた!」
晋「それは初歩だろ。」
「煩い。黙ってろ。」

 

ムカつくヤローだ。

しかし・・・さすが医者。
説明書を読んだだけでここまでやると誰が想像できる?
正直言ってめちゃくちゃ想定外。

 

「なぁなぁ、これは?」
晋「ここはな-----これとこれだ。」
「へぇ!これ使えばボスもイチコロかも。」
晋「だろうな。」

 

戦ってみたら・・・瞬殺。

恐るべし、医者の頭脳。
やっぱり凡人とは出来が違うらしい。

 

「なぁなぁ。ちょっと遊んでいいか?」
晋「あぁ。」

 

新たに発見した新技に興奮。
もはやゲームに夢中だ。

 

「どうだ---っしゃぁ!!」
晋「おい。」
「次はこいつで制覇してみるかなぁー。」
晋「おい。」
「敵レベルも最強にして・・・と。」
晋「透-----」
「----ぃっ!?」

 

ゲームに集中していると突然耳元で囁く晋。

かなりビックリした。
ていうか・・・近いぞ。

 

「な、なんだよ。ビックリするじゃないか。てか・・・離れろ。」
晋「シャワー浴びてくる。大人しくゲームしてろよ。」
「ん?」

 

シャワー。
あぁ風呂か。

 

「ゆっくり入って来いよ。」
晋「透。」
「ん?」

 

 

晋「風呂から上がったら・・・たっぷり可愛がってやる。」

 

 

「・・・・・・・え。」

 

フッと笑みを浮かべ、なぜか私の唇を親指でなぞって立ち上がる晋。

そしてそのままシャワールームへ消えていった。

 

「・・・・・・・・・・・・・・。」

 

えぇ・・・・・・・と、これって。

 

「・・・・・・・・やばい。」

 

居心地がいいからか友達っぽいからか・・・
晋に対する警戒心がどうも持続しない。

とにかく、非常にまずいことになった。

 

『YOU LOSE!』

 

抵抗せずに立ちすくんでいた画面の中のマイキャラは敵の攻撃をモロに受けKO。
あぁぁ・・・という声と共に地面に崩れ落ちる。

YOU LOSE!

機械的なその音声がヤケに耳に残る。

 

「お前の負けだぁぁぁ!!」

 

これは私が言うはずだったセリフ。

それなのに・・・なんだこの有様は。

あれだけ苦労して成し得た今の技術。
あれだけ苦労してやっつけたラスボス。

なのにさっきコントローラーを手にした素人に完敗。
私のあの修行の時間は何だったんだ。

 

いやいやそれよりも!!

 

「--------やっぱ逃げよう。」

 

勝負なんてクソ食らえだ。

卑怯者?
何とでも言え。
妙なプライドより我が身の方が大切に決まってんだろ。

 

「・・・・・・・・。」

 

なんとなく音を立てない方がいいような気がしてコントローラーをソーッと床に置く。

そしてスローモーションで立ち上がった。
耳を澄ますとシャワールームから僅かに水の音が聞こえる。

 

「しし下着・・・・」

 

とととりあえず冷静に行動しよう。

まずは下着だ。
さすがにこの格好じゃ外に出れない。
とにかく、攫われた下着を探す。

タイムリミットは短い。
迅速に見つけ出せ!!

 

「無い・・・無いッ・・・・無い!!」

 

どこに隠しやがったあの俺様!

隠せる場所もほとんどないシンプルな部屋なのに、下着どころか服も見つからない。

まさか寝室に隠したか・・・
そんなトコまで探してる時間はないぞ!

 

「こうなったら・・・」

 

かなり涼しいが・・・ここまま帰るか?
あいつの上着を拝借すれば体のラインも隠せるだろ・・・

いやいやダメだ。

この前の変態みたいに人質に取られる可能性もある。
私物は奪還して帰らねば!

 

「下着ちゃんどこにいるんだよー。こんなことなら発信機付けとけば----」

晋「そこにはねぇぞ。」
「ひっ!!」

 

クッションをめくっていると後から声がぶつかる。

勢い良く振り向くと水も滴るいい男。
ラフな部屋着に身を包み、首にタオルを掛けて立つ晋。

もちろん顔には不敵な笑みを浮かべている。

これは・・・

 

---まず過ぎる。

 

「ぁぁあれあれー!随分早かったけど温まったのかぁ!?」
晋「透。」
「もう一回ゆっくり入って来いよー!医者が風邪引いたら大変---」

 

晋「諦めろ。」

「--------」

 

用事を思い出したとか体調悪くなったとか。
どの言い訳を使おうか考える前に終止符を打たれた。
随分と先読みされたもんだ。

 

いやいやそうじゃない!

 

「あああのっ!用事が!風邪引いて!」
晋「透。」
「いいいやいやちょっと聞いて---」

 

晋「大人しく、俺のモンになれよ。」

「--------。」

 

ビシッと遮られ、何も言えなくなった。

人間、怖い時、怯える時・・・・
そういう時って体が動かないモンなんだな。

ギラリと目を光らせて近づいて来る野獣。

金縛り効果があるのか、まったく体が動かない。
クッションを抱き締めたままフリーズ。

 

「あああの・・・・ゲーム消さないと・・・」

 

そして人間とは、焦るとどうでもいいことを指摘する傾向にある。

本当はゲームなんてどうだっていい。
目の前の獣から逃れられるなら裏技だろうが幻の大技だろうが無償で教えてやる。

だが

 

---ピ。

 

晋「これでいいか?」
「えっ・・・あぁ・・・そ、そうですね。」

 

ゲームはリモコン操作で強制終了。
さすが機械化社会。

いやいや!ど、どうしよ・・・

なんか、なんか時間稼ぎ・・・
辺りを見渡すが何も使えない思いつかない。

 

どうする-----

 

走るか!?

 

晋「透。」
「--------!」

 

目の前に到着した俺様。
顎に指が触れ、キュッと上を向かされる。

 

「し---晋----ちょっと・・・待って。」

 

クッションを抱きしめる手に力が篭る。
なのに体が動かない。

声は出る。
だけど震える。

綺麗なヤツの顔がゆっくり近づいて来る。
顎に触れていた指は頬を伝い、頭の後に滑り込んだ。

 

これって

 

キスの準備完了ってやつだよな。

 

やばい、やばいやばい。

 

体-----動け!!

 

晋「・・・そんな顔するな。」
「------------っ!」

 

少し寂しそうに

いや

心底呆れたように眉間にシワを寄せた。

 

 

だが次の瞬間

 

 

唇が重なってた。