「透ーーー!!」
「「「え。」」」
怯える木戸様を壁まで追い詰めたところで思い切りドアが蹴破られた。
あまりの勢いに私達3人、マジビビリ。
「か、香織?」
ドアの方を見ると・・・犯人の香織。
なぜか息を切らし切羽詰った表情。
そしてなぜか、私のカバンを持っている。
「ど、どうしたのお前。なんかあった?ていうかなんで私のカバン---」
香「どどどうしたのじゃなーい!」
「は・・・」
香「あっ!!たたっ辰巳さん!こんにちは!」
辰「・・・・こ、こんにちは。」
あまりの迫力に辰巳さんも押され気味。
だが
「今取り込み中なんだよ。ちょっと待ってろ。」
イヤイヤ残業するか、優雅に飯を食うか。
木戸の返事次第で今日の私の運命が決まるんだよ。
香「ちょっと透っ!取り込みどころじゃないって!」
「1分待て!さぁ木戸、早く言え。そして今日一日私に付き合え!」
香「ちょっと透!ちゃんと聞いてよー!」
「木戸っ!」
木「おお落ち着いてくださいよー!」
辰「ちょっと透ちゃん!一体どうしたのっ?落ち着いて!」
「あんたは引っ込んでろ!」
辰「ひ、酷ーい!!」
香「透ーー!!」
「木戸!!」
壁にすがりつく木戸。
その胸倉を掴みぶんぶん揺らして畳み込む。
残業なんかしたくないんだよ。
早く「いいっすよー付き合いますよー」って言ってくれよ!
「な!なっ!!一緒に飯食い行こうぜ!美味い店知ってんだよ!」
「おい。」
「二人が嫌なら女子を誘ってもいいから!」
「おい。」
「うるさいな!取り込み中だって言ってんだろ!」
「てめぇ・・・俺との約束はどうすんだよ。」
「は------」
身も心も凍るような空気と共に、背中に不機嫌そうな声がぶつかってきた。
いやいやその前に・・・
なぜだ。
聞こえるはずのない声が
はっきりと聞こえた。
辰「あれ。晋だ。」
木「あ!」
「なな・・・なななな・・・」
(な・・・なんで!)
恐る恐る声の方を見ると・・・やはりいる。
ドアに手を掛けてこっちを見ている。
少々・・・
いや、激しく不機嫌顔でこっち睨んでる。
「なななんでいるんだよ!」
晋「迎えに来るって言っただろ。」
「そういう意味じゃない!なんで入って来れたんだよ!」
晋「なんでって・・・」
会社に入ってくることは無いと思ってた。
入るにはパスが必要だし、だからこそ残業で逃げ切ろうと考えてたんだぞ。
一体どうやって---
香「私が案内させてもらいましたー!!」
晋「そういうことだ。」
香「ついでに透のカバンも持ってきた!」
「・・・・・・・・・・。」
香・織・ち・ゃ・ー・ん。
何やってくれちゃってんの君は!
やばい・・・やばいぞ。
まさかこんな展開になるとは思ってなかった!
「木戸!」
木「-----------!!」
握っていた胸倉を更に締め上げ小声で脅す。
今にも泣き出しそうな潤んだ目を睨みつけると必死に首を横に振る木戸。
怖いのは分かる。
だが勇気を出せ。
助けてくれー!!
辰「ていうか・・・なに?もしかして晋、今から透ちゃんと?」
晋「約束してたはずなんだがなぁ。聞き捨てならない叫びが聞こえた。」
「や、約束なんかしてないだろ!私は今から木戸さんと用事があるんだ!」
木「そ、そんなー!」
晋「・・・・・・・へぇ。」
---ギラリ。
音が聞こえそうなくらい鋭い視線。
つまり思い切り睨まれた。
木戸さんと二人一緒にビクッと身構える。
晋「・・・・・・・・・・。」
「------------!」
そして睨んだまま近づいて来る。
半端なく怖い。
恐怖に震える木戸と私。
出来れば抱き合って慰め合いたい。
「おいコラ!触るんじゃない!放せ!」
晋「ほら、行くぞ。」
「だだだから行かないって!」
晋「喚くな。」
恐怖、正に恐怖だ。
腕をがっしり掴み、至近距離で上から睨みつける野獣。
マジで怖い。
絶対一緒に行きたくない。
「ざ、残業があるんだよ!」
晋「残業?」
とっさにさっきまでの計画を叫んだ。
こうなったら木戸は諦めよう。
残業作戦で押し切ろう!!
「そそそうだ残業!今日は残業があるんだ!明日の朝までがっつりなんだよ!な!香織っ!!」
香「へっ?」
晋「・・・・・・・・・・・・・。」
香織を凝視する私と晋。
香織は私と晋を何度か見比べた後。
思い切り首を---
横に振りやがった。
「ちょっ・・・ちょっとー!!」
香「ダメだよ透~もうメロメロ。今日は辰巳さんに加えて晋ちゃんも---」
わけの分からないことをブツブツ呟きながら私のカバンを晋に渡す。
可愛らしく頬をピンクに染めて・・・
「この・・・裏切り者ーーー!!」
晋「行くぞ。」
「ちょ・・・ちょっと!」
グイッと腕を引っぱりドアへ向かう晋。
体重をかけて抵抗するが全く敵わない。
香織を見ると満面の笑みで手を振っている。
くそ・・・覚えてろよお前!
いやいや、その前にちょっと待って。
これってやばくないか?
このまま晋に連れて行かれたら私は・・・
(・・・・・・・・・・・・。)
「ちょちょちょっと待てー!」
このままじゃヤバイ、マジでヤバイ。
喰われてしまう!
「誰か助けてくれよー!!」
香織は使えない。
木戸も晋の威嚇にビビッてまるで役に立ちそうに無い。
こうなったら---
「たた辰巳さん!」
後生だ。
辰巳さんでもいいから助けてくれェ!
辰「・・・・・・・晋。」
(え・・・・・・・!)
もう少しでドア!
というところで背中に声がぶつかった。
思い切り後を振り返る。
(た、辰巳さーん!!)
声の主はなんと辰巳さん。
あんた・・・実はイイ奴だったんだな!
そうだ!
さっさと助けろ!!
晋「なんだよ。」
振り返る晋。
辰巳さんはゆっくり近づいて来る。
助かった・・・と思い、半ば安心しきって変態に視線を送る---
だが・・・
「・・・た・・・辰巳さん?」
こっちに近づいてくるのになぜか目を合わせてもらえない。
しかも妙に・・・・真剣な顔つきの変態。
なんとなく不安が頭を過ぎる。
「・・・・・・・・?」
晋に耳打ちする辰巳さん。
一瞬のことで聞き取れなかった。
そして向かい合う2人。
しばらく睨み合ってるのか見つめ合ってるのか分からない時間が流れた。
晋「・・・・・・・・覚えとく。」
覚えとく・・・
何を?
「え・・・?ちょ、ちょっと!」
辰「・・・・・・・・・・。」
「おいコラ変態!助けてくれるんじゃなかったのかよ!」
辰「・・・・・・・・・・。」
再び腕を引かれる。
慌てて辰巳さんを見上げると
哀れむような怒っているような。
それとも悲しそうな・・・
複雑な表情を浮かべてた。
(なんだよその顔---)
いやいや変態なんてどうでもいい!
「助け---」
---パタン。
声は無情にも届くことなく。
企画室のドアは閉められた。