透「ぜぇッ---はぁッ---!」
「・・・・・・・・・。」
殺す気は無かった。
だがよっぽど苦しかったんだろう。
肩を上下させて酸素を貪る透。
透「ハッ・・・ハァッ・・・・!」
「・・・・・・・・・。」
拳が痛かったのか、こっちを睨みながら軽く手をさすっている。
まぁ、あれだけ激しく殴ったんだ。
痛んでも仕方ない。
(・・・・・。)
睨み返してくる目は潤んでいて、頬には涙が通った跡が残っている。
なんとなく目を逸らしてしまいたい。
それにしても・・・
なんだ、この違和感は。
透「はぁっ--はぁ-----ぁ?」
「・・・・・・・・・。」
呼吸はやばそうだが目の焦点は合ってる。
顔色は悪いが震えは大分治まって・・・
なんて説明したらいいか分からないが、確実に違和感がある。
明らかにさっきまでのこいつと違う---
透「・・・・・晋?」
「-----!」
なぜ疑問形なのかは不明だが、目を見開いて小さく呟いた。
(名前---)
「シノブ」じゃなくて心底安心した。
名前を呼ばれてこんなにホッとしたのは初めてかもしれない。
軽く脱力しそうになったが気合で耐えた。
(・・・・・・?)
しばらくこっちを見つめていたが、急にハッとして周りを見回す透。
瞬きの速さが半端じゃない。
「おい。」
透「--------?」
(---なんだ?)
相変わらずキョロキョロが止まらない。
なんだよ、何か探してんのか?
一緒になって周りを見回したが変わった様子は無い。
いつも通りの我が家だ。
透「は-------ハァ・・・・ッ・・・」
「・・・・・・。」
透「夢・・・」
「夢?」
透「・・・・・・。」
「?」
呼吸を整えるように深呼吸を繰り返す。
そしてゆっくり目を伏せた。
その前に夢ってなんだ?
目を開けたまま夢を見てたのか?
そんなバカな。
お前はずっと起きていたぞ。
透「・・・ぅッ・・・はぁッ・・・」
「・・・・・・・・・・。」
色々と聞きたかったがやめた。
せっかく落ち着いてきたし、ヘタに刺激してさっきのように怖がられるのは嫌だ。
透「は・・・ぁ・・・・」
「・・・・・。」
酸素が行き届いたのか、何度か深呼吸を繰り返すと大分落ち着いてきた。
閉じられていた目が薄っすらと開く。
怯えられるか、それとも睨まれるか。
そう考えると自然に体が固くなる。
そして、目が合った。
(お、おい・・・)
乾いていない潤んだ瞳。
透とは思えない
弱々しい、女の目・・・
睨まれた方がよっぽどマシだと思った。
そして認めたくないが
ドキッとした。
「------ッ!?」
突然、胸元に触れた感触にハッとする。
視線を下に向けると透の手が俺の胸元に触れて、そのまま服を握った。
どうやら瞳に気を取られて気付かなかったらしい。
いやその前に---
「お前・・・俺が怖くないのか?」
思わず言葉が零れた。
当然の疑問だろう?
さっきまであんなに拒絶してたのに今は自ら俺に触れてる。
一体どういう心境の変化---
透「----------良かっ・・た・・・」
「え・・・?」
良かったって・・・何が?
当然そう思った。
だが聞き返すことは出来なかった。
透「はッ・・ハァッ----ぁッ・・・」
「-----!」
なぜか治まっていた震えが再発。
苦しそうに口を抑え、固く目を瞑る。
呼吸が荒くなり、俺の服を掴む手に力が篭っていく。
透「ハァッ、ハァッ---!」
「おい---」
透「は---ぁッ・・・くッ・・・・!」
「透!」
壊れちまうんじゃないかと思った。
そう思わせるには十分な乱れ様。
普通に、焦る。
---拒絶が怖い
そんなの言ってる場合じゃねぇと思った。
さすがに見てるだけなんて出来ない。
「透、触るぞ。触るからな?」
一応断りを入れて
抱き寄せた。
透「------ッ!」
「何もしねぇから---怖がるな。」
触れたら一瞬、ビクッと体が跳ねた。
抵抗されたわけじゃないがとりあえずもう一度断りを入れた。
(なんだよこれ・・・)
驚愕するほど震えが酷い。
見て感じるのと触れて感じるのとでは全く違う。
直接伝わってくるソレに怯みそうになる。
「透、もう大丈夫だ。」
自分で怖がらせといてよく言うと思う。
だがこれしかかける言葉が見つからない。
ゆっくり腕に力を篭める。
いいのか悪いのか分からないが背中を軽くさすってみた。
透「ハァッ・・・ぁ・・ぅ----」
「---落ち着け。」
俺が言うのは間違ってる。
だが今はスルーだ。
そんなこと言ってる場合じゃない、と思う。
「もう大丈夫だから。」
透「ぁッ・・・ぅ・・んッ・・」
「ゆっくり息を吐け。」
透「---ぅ・・うん・・・ッ・・」
俺の胸に顔を押し付けながら小さく頷く透。
どうやらちゃんと聞こえてるようだ。
(早く治まれ・・・)
全く治まらない震えに焦りが募る。
もう何しないから治まってくれ・・・
頭を撫でながらひたすら願った。
そして落ち着いたら
すぐに謝ろうと思った。