ビーム

ビーム—–3 SAKURA∞SAKU first

有「んー、そろそろ寝れそうだ。」

 

あれからしばらくして有希が目を擦りだした。

やっと睡魔が襲ってきたか・・・
いつも以上に飲んでたくせに今日は酔うのが遅かったような気がする。

 

累「・・・大丈夫?」
「あぁ・・・」

 

ゆっくり立ち上がる有希。

しかし足元が危ない。

相当飲んでたからな。
どうやら足にきてるらしい。

 

有「うわ、やっぱダメだ・・・悪いけど誰か肩貸してくんねぇ?」

 

(---え!)

 

いつもなら我先に「俺が貸す」と立候補するヤロー共。

なのになぜだ。

今日に限って全員目ぇ逸らしやがった。

 

有「なんだ、冷てぇ奴らだな。じゃぁ孝、宜しく頼む。」
「あ、あぁ・・・」

 

(くそ、失敗した・・・)

 

こいつらと同様、出来れば今日は遠慮したかった。

だが逃げ損ねた俺の視線はあっけなく有希に捕まってしまった。

 

有「やべ・・・少し目が回るかも。」
「あんなに飲んだんだ。回って当然だろ。」
有「そんなもん?」
「そんなもんだ。ほら、行くぞ。」
有「ん・・・」

 

ふらつく有希の腕を支えて軽く引く。

正直、俺の動悸はまだ治まってねぇんだ。
寝るならさっさと送らせてくれ。

 

有「じゃぁ皆、今日は本当にゴメンな。それと、サンキュ。」
累「・・・いいから、ゆっくり休めよ。」
純「お休み、姫。」
要「お休み。」
真「・・・明日な。」
有「ん、お休み・・・」

 

最後に軽く手を上げよろよろと歩き出す有希。
それに合わせてゆっくり部屋に向かった。

ちなみに部屋に入るまであいつらの声が一言も聞こえなかった。

恐らくまだふわふわしてんだろ。
俺だって早く余韻に浸りたい。

 

有「ん・・・サンキュ・・」

 

いつもの何倍も時間が掛かった気がしたがなんとか部屋に着いた。

よっぽど眠いのか、ベッドに座らせるとぐしぐし目を擦り出した。

後は布団を掛けてやれば・・・

 

「・・・どうした、寝ないのか?」
「・・・・・・。」
「?」

 

見るからに眠そうな有希。

なのになぜだ。
ベッドの端に座ったまま横になろうとしない。

 

「有希?」

 

どうしたんだ、一体。

 

「あ、あのさ、孝・・・」
「なんだ。」
「・・・・頼みがあるんだけど。」
「頼み?言ってみろ。」
「う、うん、えっと・・・」

 

頼み事なんて・・・
珍しいこともあったもんだな。

それにしてもそんなに言い難いことなのか。

勇気をかき集めるように両手でシーツをギュッと握り締めている。

 

「あ、あのさ・・・
 す、少しだけでいいんだ。

 その・・・・・

 ぎゅって・・・・・してくれねぇ?」

 

 

--------。

 

 

 

-----------っ!?

 

な、なんだと!?

 

(な、何を言ってんだこいつは---!)

 

さっきも凄かったがそれどころじゃねぇ。

まるで狼に遭遇した子羊のように思い切り固まってしまった。

 

(ま、まだ俺を追い込むつもりなのか---?)

 

頭の中はパニックを飛び越え爆発しそうだ。

おい誰か・・・
頼むから助けに来い!

 

「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・ごめん。」
「・・・?」
「やっぱ・・・・ダメだよな。」
「え・・」
「変なこと言って悪かった・・・今のは忘れてくれ。お休み。」
「-------!」

 

答えられないでいるとそれを拒否と受け取ったらしい。

明らかに落胆する有希。
そして布団に引きこもろうとモゾモゾ動き出した。

 

(も、もうダメだ・・・)

 

なんなんだこの生き物は・・・

 

 

可愛くて仕方がねぇ

 

 

「ダ、ダメじゃねぇよ・・・」
「・・・え?」

 

ポカンと見上げてきた顔にはまだ落胆色が残っている。

だが自分の頼みが受け入れられと分かったのか
二、三度瞬きを繰り返した後、はにかんで笑ってみせた。

 

(お、おいおい----)

 

そ、そんな顔向けないでくれ・・・

いつ爆発してもおかしくねぇ状況なんだぞ。
これ以上俺を刺激するな。

 

「へへ・・・ありがとな。」
「あ、あぁ・・・」

 

有希と向かい合うようにベッドに座る。

そして包みやすいよう片膝を立てた。

 

(あ・・・有り得ねぇ・・・)

 

さあここからどうするか、と思えば

なんと自分から体を預けてきやがった。

 

これは夢か・・・
俺は夢を見ているのか?

 

(震えるなよ・・俺・・・)

 

腕の中にすっぽり納まる小さな体。
片手で背中を軽く引き寄せ、反対の手で髪を撫でた。

相変わらず華奢な体だな。

それに・・・相変わらず香ってくる匂いが甘い。

 

「孝にも心臓があるんだな。」
「・・・当たり前だろ。」
「音が聞こえる。」
「---そうか。」
「うん、それに・・・お前の匂いって・・・やっぱり、好きだ・・」

 

俺の服の裾を軽く掴んでくる細い手。

その手はもう、震えてはいなかった。

 

「それ・・・さっきも言ってたな。」
「んー・・・なんかさ、お前の、匂いって・・」
「・・・。」
「妙に、落ち・・・つ、く・・・・」
「---?」

 

最後の方は良く聞こえなかったが・・・

 

これはもしや

 

眠ったのか?

 

(・・・・・・・・・。)

 

眠りについたのか
ただじっとしてるだけなのか

結局確認することもできず、しばらくその体勢に耐えた。

 

(眠ってる・・・な。)

 

少しすると有希の体が傾きだした。
どうやら完全に眠りに着いたらしい。

 

「ったく、心配させやがって・・・」

 

動かない体をベッドに寝かせる。

なんの夢を見てるのか、幸せそうに寝息を立てる有希に思わず本音が出た。

まあ、今日はいろいろあったからな。
眠れるだけいい方だったのかもしれない。

 

とりあえず・・・戻ろう。

端に寄せられた布団を引き寄せる。
そして体を包み込むように包んでやった。

 

(・・・・・・。)

 

ふと、無防備な唇に目がとまった。

 

 

「・・・・・。」

 

 

少し迷ったが・・・

 

軽く、額にキスをした。

 

「---いい夢見ろよ、有希。」

 

その後、なんとか階段をおりてリビングに戻った。

 

だがにっこりビーム事件だけならまだしも
有希に抱きつかれたという珍事件も重なり俺の精神は予想以上に疲弊していたらしい。

裏切り者共に言ってやりたいことは山ほどあったが、倒れこむようにソファーに沈んだ。

そしてあいつらもまた、お互い会話することなくソファーに身を預けていた。

 

 

 

 

 

-----ビーム(完)