有「スー・・」
一体なにをしでかすつもりなのか。
有希は息を深く吸い込んだ。
そして---
ふぅ、と吐いた。
(・・・・・し、深呼吸?)
意味が分からない。
しかしその理由を想像する間もなく、有希はくいっと顔を上げ下から見上げてきた。
(-----?)
今度は一体なんだ?
その前にちょっと待て。
なんか-----距離が近い。
普段なら大歓迎だが今はちょっと--
---ニコッ
(え・・・)
突然、何の前触れもなく有希が微笑んだ。
(-----、----っ!?)
正に衝撃。
背中から思い切りタックルを食らったような気がした。
とにかく
心臓がドカンと鳴った。
(な、なんだよ今の・・・)
情けないが有希と見つめ合ったまま放心状態。
心臓だけが狂ったバイクのように激しく波打ってる。
(・・・・!)
どのくらい時間が経ったか。
有希がゆっくり離れていく。
いつもならきっと手を引いて行かせねぇのに・・・
なぜか今は安心してしまった。
(くそ・・・)
よっぽど緊張してたらしい。
安心と同時に今度は顔に熱が集まっていく。
頬がすっげぇ熱い。
(・・・・あ・・)
ふと有希を見ると次のターゲットを見つけたらしい。
まるで獲物を狙う猫のようにじわじわと真樹に迫っている。
ていうか今のは俺限定じゃなかったのかよ。
なんとなくムカつく。
真「------------。」
それにしても・・・
どうやら真樹もやられちまったらしい。
深呼吸を食らい見事に硬直しやがった。
そういや普段クールに決めてる帝王も最近じゃ様子が変だ。
有希に振り回されているというかなんというか・・・
まあ、気持ちは分からないでもない。
(-----!)
固まる真樹から離れ有希はスッと立ち上がった。
そんなに酔いが回ってるんだろうか。
足元がふらついてるような気が・・・
累「-----。」
純「-----。」
フラフラと純と累に近づいて行く有希。
そしてやはり深呼吸。
ちなみに予想通りの反応を示す二人。
ちっとも面白くない。
要「--------!」
要がビクッと体を震わせた。
なぜなら有希がヤツに向かって歩き出したからだ。
逃げるようにソファーの上を後退する要。
おまけに「来るな!」とでも言うように首を横に振っている。
(・・・面白ぇ。)
要がこんな風に焦る様なんて初めて見た。
次はいつ見れるか分かんねぇからな。
この機会にしっかり観察しておこうと思う。
そして要も予想通り
ニッコリビームを食らった後、まるで石像のようにビシッと固まりやがった。
それにしても、有希は一体何がしたいんだ?
ただの深呼吸?
いやいやそんなはずはない。
それじゃもしや嫌がらせ?
それともまさかのマーキング--
(え・・・!)
一難去ってまた一難。
俺の番は終わったと思ったが、要から離れた有希は再びこっちへ向かってきた。
要の気持ちが良く分かる。
真樹も同じなんだろう。
今にも後ずさりしそうな勢いだ。
(ちょ、ちょっと待て---!)
心の叫びも虚しく有希はずんずん進んでくる。
そして俺と真樹の間で立ち止まり--
ポスン、と元の場所へ座った。
有「あれ、私のグラスこれだっけ?ま、どれでもいっか。」
ちなみに何事もなかったかのように飲むのを再開させた。
「「「 ・・・・・?? 」」」
当然の反応だろう。
なんだったんだよ今のは。
さっぱり意味が分からない。
要「・・・あ、あのぉ、有希ちゃん?」
有「あ?」
要が代表して聞いてくれるようだ。
ナイスだ。
しっかりやれ。
要「今のはどういう・・・」
有「今の・・・?あぁ!今のはな、匂いを確認したんだ!」
要「・・・は?」
「「「・・・・・・・・。」」」
に、匂いを?確認?
有「へへ。実はな、私、皆の匂いが好きなんだよ。」
要「へ?」
す、好き?匂いが?
有「なんでか分かんねぇけど・・・すっげー落ち着くんだよなぁ。」
「「「----------!!」」」
匂いの確認とか匂いが好きとか
言ってる意味は良く分からない。
だが「落ち着く」と言い放った有希は
今まで見た中で最高に綺麗な
「女」の笑顔を浮かべた。
「「「--------。」」」
有「・・・?」
そして俺らは全滅した。
有「どうした?」
どうしたじゃねぇよ。
どうかしてるのはお前だろ。
それとも何をしでかしたか分かってないのか?
もしそうなら・・・
性質が悪いにも程がある。
真「な、なんでもねぇ。」
有「・・・そうか?それならいいけど。」
やはり分かってないらしい。
一瞬首を傾げた後、有希は飲むのを再開した。
有「なんだか今日は酒が美味いな!」
「「「・・・・・。」」」
有「あれ・・・不味いか?」
累「え!あ!そ、そうだな!美味いな!」
純「う、うん。」
有「やっぱアレかな!みんなで飲んでるからかもしれねぇな!」
要「そ、そうだな。」
真「・・・あぁ。」
「・・・そうかもな。」
その後、俺達は全員上の空で会話を交わした。
ある意味面白い状況だったが
楽しむ余裕はなかった。