ターゲット捕獲

ターゲット捕獲—2 GAME


昨日は・・・・そうだ。

夕飯食べ終わって「明日も休み~」なんて家でゴロゴロと怠惰を貪っていた。

チャンネルを変えても面白い番組が見つからなくてなんか面白いことないかなーなんて思った。

 



それがいけなかったのか・・・



 

「半分は顔見知りだと思うけど改めて自己紹介しよっか!えっと、結衣でーす!宜しくお願いしまーす!」

「香織でーす!」

「・・・・・・・・・・・。」

「ほらっ!自己紹介して!」

「・・・・・・・・透です。」

 




テレビを眺めてると鳴り響いた携帯。

通話を押すと「事件なの!助けて!」

友人の香織から電話口で叫ばれた。

何事かと慌てて出向いたらなんだこれ。




 

「健太です!また一緒に飲めて嬉しいでーす!」

「悠人です。宜しくー!」

「一樹です。宜しくお願いしまーす!」




 

目の前には指輪やらネックレスがたくさんついてるニコニコ笑顔の男子が3人。

どこから見てもかなり年下の若者だ。

先日、香織とこの店に飲みに来た時に声を掛けられた。

香織と誰かが「今度一緒に遊ぼうねー」なんて言ってたみたいだがまさか実現するとは思わなかった。




 

「「「かんぱーい!!」」」

「・・・・・・・・・・・。」



 

まぁ、事件という名の合コンですよ。

コロッと騙されて呼び出されたわけだな。




 

健「結衣ちゃんって何歳だったっけ?」

結「23歳でーす!」

一「若ーい!」

健「香織ちゃんって本当に彼氏いないの?」

香「いないいない!あんなの知らない!」

一「あんなの?」

 




結衣は香織繋がりの知人だ。

実際、個人的に遊んだことはないがなぜか良く会う。

栗色のストレート。

綺麗なお姉さんって感じ。



香織は昔からの友人で会社も一緒。

明るい茶髪のゆるいウェーブヘア。

誰が見ても可愛らしい女の子だ。

どうやら浮気癖のある彼氏がまた浮気したらしい。

怒ったぞー!ということで合コンを開催。

どうでもいいが私を巻き込むのは止めろ。

 




悠「透ちゃん、俺のこと覚えてる?」

「・・・え?」

悠「やっぱ覚えてないんだ。悠人だよ!」

「あぁ、悠人君。」

悠「透ちゃんってカッコイイよね。クールっていうの?すっげー興味がある。」

「・・・中身はスカスカだよ。」




 

ところで、私は日下 透。

普通の人間、普通の女子。

特徴を挙げるとすれば・・・

少し大きめの身長、ちなみに165cm。

髪はショートな上に男子寄りのファッションが好み。

結果、自分で言うのは気が進みませんが・・・

一見、男に見える。


え、年齢?

まぁ「誕生日ってなに?」なんてとぼけたくなるお年頃だ。

ちなみに23歳ではない。




 

健「じゃぁそろそろ!ゲームでもやっちゃいましょうか!」

結「やるやるー!」

「・・・おい香織。カウンターでお代わりもらってくる。」

香「え!?早く戻ってきてよ!」

「・・・努力する。」

悠「透ちゃんどこ行くの?」

「・・・すぐ戻るよ。」




 

(・・・しんどい。)

 




フィーバー騒ぎに着いていけず、ひとまず避難を試みた。

どうもあのノリは苦手だ。

 




「おーい葵くん、焼酎ロックで宜しく。ていうか、ここ座ってもいい?」

葵「どうぞどうぞ。透さんも大変ですね。」

「まぁなー。」

 




このBARには良くお世話になってる。

故に店員の葵くんとはちょっとした友達だ。

土曜日ってことで客も多いが、カウンターの一番端が空いていたのでこそっと座り込む。

しばらくここで時間を潰そうと思った。




 

葵「はいどうぞ。」

「どうも。」

葵「戻らなくてもいいんですか?」

「大丈夫だろ。」

葵「どうせならこの際彼氏作れば---」

「冗談止めてくれよ。」

 




明らかにからかいながら話しかけてくる葵。

無駄口叩く暇があるなら仕事しろ。

 




葵「透さんって彼氏作らないんですか?聞いたことも見たこともないですけど。まさか男性と付き合ったこと無い---」

「そんな天然記念物じゃないよ。私を何歳だと思ってんだ。君より年上ですよ。」

葵「そ、そうですよね・・・じゃぁなんで作らないんですか?」

「なんでって、いらないからだよ。」

葵「ふーん・・・」

 




グラスを拭きながらじーっと見てくる。

まるでカワイソウな物でも見るかのように。

 




「そんな目で見るな。」

葵「香織さんは恋多き乙女なのに。透さんもしかして・・・男嫌い?」

「もう煩いな。さっさと仕事しろよ。」

葵「・・・してますよ。」

 




(彼氏・・・・・ねぇ。)




 

元々、恋愛に特別興味がある方ではない。

もちろん一応女子なんで、彼氏が欲しくて付き合いと別れを繰り返してきた経験は人並みだと思う。

でもかれこれ2年は一人身だなぁ。

と思うものの、彼氏が欲しいわけではない。

というより欲しくない。

男嫌いってわけじゃないんだけど。



ただ・・・




 

(一服しよう・・・・)

 




なんで休日に考え事しないといけないんだ。

バカらしい。

タバコを吸おうとポケットに手を入れた。

 




(ん・・・・・?)




 

タバコを吸おうとポケットに手を・・・

タバコを吸おうとポケットに・・・

 



何も無い。

 



「あー、あっちに置きっぱなしだ。」

葵「タバコですか?取ってきましょうか?」

「いいよ。気付かれたら面倒臭い。」

葵「・・・・なるほど。」

 




別にタバコ中毒でもないんで無いなら無いで構わない。

タバコを諦めて焼酎を流し込んだ。

 




 

『良かったらどうぞ。』

 




 

不意に左から声が降ってきた。

そしてスッと出されるタバコ。

 




店「た、辰巳さん!」

 




声とタバコにもビックリしたが、急に緊張して叫んだ葵の反応にもビックリ。

自然、タバコの持ち主に顔を向ける・・・

 




(ぅおっ-----!!)

 




葵の気持ちが良く分かった。

 




なぜなら隣に座ってたのは

 




正に叫びたくなるくらい

 




激しく整った容姿の・・・色男。

 




「あの・・・大丈夫です。あっちに置いてきただけなんで。」

辰「遠慮しないで?葵君も取りに行けないみたいだし。」

「えと---」

葵「おお俺の名前!覚えててくれたんですか!!」

辰「う、うん。」

「・・・・・・。」

 




葵の剣幕に少々引き気味の辰巳さん。

 




そしてこの辰巳さんと呼ばれる色男。

 




こいつこそ正に




 

翌朝目覚めたら・・・

同じベッドに寝ていた男。




 

辰「タバコ、取りに行けないんでしょ?これで良かったらどうぞ。」

「じゃぁ・・・・有難くいただきます。」

 




ニコッと微笑んでタバコをくれた。

どことなく余裕を感じさせる笑顔だな。

ついでにライターもお借りしますよ。

 





葵「はぁ。やっぱ辰巳さんっていい男ですよねぇ。」

辰「え?」

葵「3人とも絶世の美形ですけど!俺は断然辰巳さんが好きです!」

辰「は、はは。どうもありがとう。」

「・・・・・・・・・・。」

 




意味不明な発言もあったが、葵は辰巳さんを見てポーッとしている。

ていうかこいつ、思い切り公言告白しやがった。

大声で叫ぶなんて・・・

若いっていいね。

 




「葵くんてば大胆だなぁ。邪魔しちゃ悪いんでそろそろ戻るよ。」

辰「え・・・」

葵「そ、そういう意味じゃないですよ!俺っ男ですよ!?憧れって意味で---」

「い、いやいやどうぞごゆっくり。辰巳さんタバコありがとうございました。頑張れよ葵。じゃ!」

葵「こここらこらぁー!」

辰「・・・・・・・・・・。」

 




そそくさと立ち上がるとカウンターに身を乗り出して腕を掴んでくる葵。

頬を真っ赤に染め上げて焦っている。

 




「大声で告白しちゃったんだ。今更照れなくてもいいだろ。正念場なんだから男を見せろよ。」

辰「・・・・・・・・・・。」

葵「だから違いますって!憧れなんです憧れ!」

「へぇそうなんだ。」

葵「そんな目で見ないでくださいよ!とりあえず座ってください!」

「いやいや。マジでそろそろ戻ろうかと思って。」

 




チラリと合コン席を見ると・・・

香織と・・・えーと悠人くんだったか?

2人がすっごくこっち見てる。

こっそり隠れてるつもりだったのに葵の大声のせいで隠密行動も水の泡だ。

 




「とにかく戻るよ。また後で来ると思うから宜しく。」

葵「ちょっとちょっとー!行かないでくださいよー!」

「こ、こら引っ張るな---」

辰「俺も行かないで欲しいな。」

「え?---あ!」

 




スッと伸びてくる綺麗な手が私の手中の焼酎のグラスと吸いかけのタバコを奪っていく。

そしてカタン、とグラスをカウンターに置き、タバコを自分の口に持っていく辰巳さん。

なんとまぁ・・・華麗な所作!

 




辰「連れが帰って寂しく一人なんだよね。少しだけ付き合ってくれないかな。」

 




ニッコリ微笑んで着席を促される。

 




葵「や、やられた------」

 




その微笑・・・命名・悩殺スマイル

まぁ、殺られたのは葵なんですが。

 




辰「戻りたくないんだろ?」

「まぁ、そうなんですが。」

辰「何か言われたら俺が説明するから。」

「え、そうですか?じゃぁもうしばらくここにいよ。」

葵「やったー!!」

辰「・・・切り替え早いね。」

 




香織たちの視線をスルーして座り直す。

こっちがいい・・・

というより合コン席に戻りたくなかったからだ。

 




「辰巳さんが説明してくれれば香織も納得するだろ。」

葵「そうですよ!香織さん、イケメン大好きですから!」

辰「・・・・・・・・・。」

 






後から考えると-----

 





 

押し切って戻ってれば良かったと後悔する。