予感

予感 01 ~GAME






「どこに行ったかと思ったら・・・こんなところにいたのか。」

「えっ?」







ざわざわと騒がしい喧騒の中

突然耳に入り込んだ声にハッと顔を上げる。



するといつの間に近づいてきたんだろう。

ヘラヘラ笑顔のスーツ姿のおっさんが目の前に・・・






--じゃなくて






「お疲れ様です、部長。」

部「あぁ、お疲れさん。」






目の前にいたのは我らが上司。

おっさん改め松田部長。






部「親睦会、上手くいってよかったな。」

「まぁ・・・上手くいってればいいんですけど。」

部「いってるじゃないか。見てみろ。少なくとも我々K社のメンバーは浮き足立ってる。」

「・・・浮き足立ってたらまずいんじゃないですか?」

部「まぁまぁ、細かいことは気にするな!」






私の横に並び、同じように壁に背もたれる部長。

酔ってるんだろうか。
ちょっぴり顔が赤い。





部「ところで代表挨拶、上出来だったじゃないか。S社の方も褒めてたぞ?」

「ほ、ほんとですか?めちゃくちゃ緊張しましたけど。」

部「え、緊張してたのか?全然分からなかった。」

「・・・良く言われます。」





顔に出ないタイプなんです。





部「ところで日下・・・こんな隅っこでなにをやってるんだ?」

「えっ?い、いやぁ、別に・・・決して人ごみが面倒で逃げてきたわけじゃないです。」

部「・・・意外に正直だよな。」

「え・・・あ。」





しまった・・
ついつい心の声が。





部「ま、俺もいい加減愛想笑いは疲れたよ。早く帰って風呂に入って寝たい。」

「・・・同感です。」





どうやら同じく逃げてきたらしい。

軽く笑いを浮かべてグラスに口を付ける部長。
それを横目に私もワインを喉に流し込んだ。








(あー、早く終わらないかな・・・)









本日、連休前の金曜日。

時刻は午後9時ちょっと過ぎ。


現在地は某ホテル内にある小さなホール。

約40名ほどのスーツ姿の人間が集まり
小規模ながら立食パーティーが開催されている。







そんな中、私は何をしているかというと・・・







ご覧の通り、ホールの壁際でちびちびとワインを飲んでいたりする。







え?

そんなとこで何やってんのって?
やる気がないならさっさと帰れって?






まぁ・・・

帰りたいのはやまやまだがそうもいかない。







なぜならこのパーティー







実は、私(達)が主催しているからだ。








---S、K社・合同企画


思い出してほしい。

そして「あれってまだ終わってなかったの?」なんて思わないでほしい。




もちろん終わってないぞ。




しかも着々と進められてきたこの企画。

辰巳さん、木戸さんとの打ち合わせ過程も終了し、とうとう次の段階に突入することになった。


それに伴って企画に参加してもらう両社のメンバーも決定。

そして本日、それぞれの顔合わせを兼ねた親睦会を設けたってわけだ。





(ま、セッティングはほぼ木戸さんがやってくれたんだけど・・・)





運転手、木戸。

暇な運転手だとばかり思っていたがやはりS社所属。

段取りの手際の良さが半端じゃない。
今度からこの手の仕事は全部あいつに丸投げしようと思う。






『あれっ!誰かと思えば松田部長に日下さん!』

『ほんとだ!お疲れ様です!!』

部「あ、あぁ、お疲れさん。」

「・・・お疲れ様です。」





部長と並びボーっと会場を眺めていたら元気な声がぶつかってきた。

目を向けると二人の男女。

あ、同社だ。
K社のネームプレートを下げている。






『広報部の上田です!』

『同じく広報部の下田です!宜しくお願いしますっ!』

「え、と・・・日下です。宜しくお願いします。」

部「元気だねぇ・・・」






ほんとにねぇ・・・

やはり若さが足りないんだろうか。
ものすごく温度差を感じる。

ちなみに私は第二の事務処理部--
なんて噂されてる企画部に所属している。






上「僕、この企画を聞いた時は感動しました!だからメンバーに選ばれたって聞いて・・・思わずガッツポーズしちゃいましたよ!」

下「私もですよー!ガンガン宣伝しちゃいますから!うちの商品を全国に・・・いや世界に知らしめてやりましょう!」

部「・・・・・・。」

「・・・・・・。」






おっしゃー!と拳を突き上げ
ついでにハイタッチを決める上下コンビ。


ちなみに我がK社は自社ブランドを中心にインテリアや雑貨を手掛けている。

ランク付けするなら中の下くらいだろうか。


ついでに言うとS社はIT関連の会社。

部長が言うにはランクは上の特上、雲の上の会社らしい。






上「それにまさか合同企画の相手があのS社・・・更なるサプライズですよ!もう嬉しすぎて爆発しそうです!」

下「ほんとですよ!それもこれも日下さんのおかげです!もはや日下さんは私達のヒーローですよ!」

上「よっ!ヒーロー!」

部「・・・・・・。」

「・・・・・・。」





どんどん興奮していく二人に私と部長、かける言葉もなし。

ていうか君たち。
自分、一応女の子です。






下「しかもS社の担当があの---進藤さん!」

上「かーっ!今から興奮しますってばこれー!」

部「・・・・・。」

「・・・・・。」






頭を抱えてもだえる上田。

そして下田はクルンと一回転したのち会場のある一点を指差す。

あまりの迫力に釣られてそっちに視線を向けると・・






部「おぉ---!」

「なんだあれは・・・」






指差す先には小さな人だかりが出来ていた。

そのほとんどは主に我がK社のメンバー。
中にはお偉いさんも混ざっている。

そしてその集団に囲まれているのは---






(あららかわいそうに・・・)






必死に営業スマイルを浮かべる変態

S社のエリート、進藤辰巳。






部「さすが進藤くん!」

「・・・・・。」






どうも前から辰巳さんに甘い部長。
興奮気味に身を乗り出した。


それにしても・・・

どうやらあの変態、K社のミーハー連中に捕まってしまったようだ。

「参ったなぁ・・」なんて顔して苦笑を浮かべてる。






上「進藤さんってほんとカッコいいですよね。身長も高いし大人な雰囲気だし・・・全ての男の憧れです!」

部「確かに。それは否定しない。」

下「おまけに紳士だし仕事もできるし!全ての女性の理想です!」

「・・・性格は極悪だけどね。」

上「俺、後で握手してもらっちゃお!」

下「え!私も私も!きゃー!」

「・・・本性知らないって幸せだよな。」

部「日下?何をぼそぼそ言ってるんだ?」

「・・・いいえ別に。」





ついつい本音が・・・

ちなみに下田を筆頭に女子社員からは黄色い声もちらほら。

中には頬を真っ赤に染めて変態を眺めてる女子もいる。





「はぁ・・・今からこんな状態じゃ先が思いやられる。仕事に支障が出なきゃいいですけど。」

部「なんだ日下、ヤキモチか?」




---なんですと?




「・・・・・耳腐ってんですか?血迷ったこと言わないでください。」

部「日下も可愛いとこあるじゃないかはははは!」

上・下「はははは!」

「・・・・・・。」





伝染したのか上下コンビまで豪快に笑い出した。

ていうかお前らうるさい・・・
ちょっと静かにしろ。

ほら見て。
S社の怖そうなお兄さんがこっち睨んでる。






「皆さんあの・・・そろそろ仕事に戻りませんか。」

部「なんだ日下。まだいいじゃないか。」

「良くないですよ。んだか睨まれてるしもうすぐ会も終わりですし。最後くらいしっかり仕事してください。」

部「えー。」

下「進藤さんを知ることも仕事ですよ日下さん!」





・・・は?





部「良く言った下田!その通りだ!」

上「さぁ日下さん!一緒に語り合いましょう!進藤さんの魅力について!」

部「おー!そりゃいい!」

「・・・・・・。」





変態を知ることが仕事?
変態の魅力について語り合う?

バカだろお前ら。
バカなんだろ。








(なんだろう・・・)








こいつら・・








すっげぇ面倒くさい。









「あの・・・ちょっとお手洗い行ってきます。」

上「じゃあまずは俺から!進藤さんに関しては負けませんよ!」

下「私も負けないよー!」

部「ふふふ・・・お前ら、俺を見くびるなよ。」

「・・・・・。」






無視かコラ。

どうやら私のお手洗いなんかどうでもいいらしい。

三人そろって目を輝かせ、なにが楽しいのか変態についてきゃいきゃい語り出した。







(付き合ってらんね・・・)







変態ワールドに旅立った三バカトリオからそろりと離れる。







そしてコッソリと会場を抜け出した。