(出ろよ・・・・・出てくれよ!)
携帯を持つ手に力が入る。
早く
早く出てくれ---
今夜は雷が激しい。
台風が近づいてるっていうし・・・
停電にならなけりゃいいけど。
そんなことを思いながらボーっと外を眺めてた。
そんな時、不意に電話が鳴った。
ライブのことで連絡すると言っていたメンバーだ。
『よぉ!悪ぃな、連絡遅くなって。』
「全然いいよ。気にすんな。」
『それにしても雷すげぇな!』
「そうだな。」
『停電なんて久しぶりじゃねぇ?』
・・・え?
「・・・停電?」
『さっき停電になっただろ?もしかしてそっちは大丈夫だった?』
告げられた言葉に背筋が冷える。
だって俺の家はずっと明るかったのに・・・
「いつ停電になった?」
『えーと、30分くらい前かな。今回は電気が点くまで時間がかかってさ。暗闇って不便だよなぁ。やっぱ人間明かりがないと生きていけねぇよ。』
(ウソだろ・・・)
今日の雷で停電が起こった?
まさか
まさかな・・・
嫌な予感がした。
「わ、悪ぃ。かけ直してもいいか?」
『え?あ、ああ、構わね
悪いと思ったが途中で通話を切った。
そしてすぐにあいつの名前を探す。
(大丈夫、大丈夫だって---!)
自分に言い聞かせながらも嫌な汗が額を伝う。
頼むから早く出てくれ。
声が聞きたい。
いつも通りの元気な声---
『遼!』
「!」
電話に出たのは・・・
有希じゃなかった。
「-------孝?」
『・・・あぁ。』
孝・・・
なんで・・・?
「・・・有希は?」
孝『---風呂。』
「風呂?え・・・ちょっと・・・桜館、さっき停電にならなかったか?もしかしてその間ずっと風呂に---!?」
孝『なぁ・・・』
「答えろよ!」
余計なこと話してる場合じゃない---!
だって停電になったらあいつは・・・
「早く答えろ!」
孝『おい。』
「有希はそこにいないのか!?」
孝『・・・アレは一体なんだ。』
「だから---え?」
孝『なんで・・・なんであんなに怯えるんだよ。』
な、なんだって?
怯える?
てことはやっぱり・・・
『・・・・・・・・。』
「・・・・・・・・。」
『なんとか言えよ。』
やっぱりおかしくなったんだ。
いつものように・・・
「・・・その前にあいつは?どうなったか教えてくれ。」
孝『---階段おりてる最中に停電になって。見つけたときには蹲ってて・・・震えてた。』
「・・・・・・。」
孝『腕を掴んだらめちゃくちゃ怯えて・・・目の焦点も合わねぇし俺らのことが見えてないみたいだった。』
「・・・・・・。」
有希・・・
「・・・それで?」
孝『・・・真樹が強引に抱きしめた。』
「は---」
孝『で、しばらくしたら落ち着いて、今は風呂に入ってる。』
「え、お、落ち着いた?」
孝『・・・なんだよ。』
「い、いや・・・」
あいつにはトラウマがある。
3年も経つのに未だ悩まされてる心の傷。
大分面影は消えてきたが停電には必ず反応する。
---急な暗闇
有希はそれに恐怖を感じるようで
見ていて痛々しいほどに・・・怯える。
(それにしても・・・)
停電の後に---風呂?
ウソだろ・・・
こんな短時間で落ち着いたってのか?
孝『お前の番だ。あれは一体何なんだよ。』
「----!」
孝の声色が変わった。
まるで「逃がさねぇ」って言われてるみたいだ。
でも・・・
「・・・詳しいことは言えない。」
孝『遼。』
「約束してるんだ。勘弁してくれ・・・」
孝『・・・・・・。』
ごめん。
孝『---分かった。』
「とにかく・・・あいつは停電がダメなんだ。停電の時は必ずパニックになる。」
孝『・・・・・・。』
黙り込む孝。
そういや腕を掴んだって言ってたな。
それじゃ・・・
あいつが怯えるのをまともに感じてしまったのか。
(辛いよな・・・)
お前がどのくらい有希を好きなのかは知らないけど
好きな女の恐怖心を直に感じるって、結構しんどいもんだよな。