reason

reason 01 ~ GAME






(106番、106番・・・)







まるでイベント会場のようにずらりと並べられたベンチ

それに負けじと席に着く皆さん

前方にはひっきりなしに数字を表示する電光掲示板

一人、また一人と自分の番号に吸い寄せられて席を立っていく。




そんな中、一体私は何をやってるかというと






(106番、106番はまだか・・・!)






自分の番号はまだかとぼんやり---

ではなく、身を縮めてコソコソと掲示板を伺っている。






「日下さん、日下透さん。」

「え!あ、はい!」






番号が表示されるとばかり思ってたのにまさかのフェイント。

フルネームで呼び出された。






「日下さんお疲れ様でした。」

「あー、どうも。」

「異常は見られなかったみたいですよ。」

「そりゃ良かった。」

「詳細な検査結果は後日郵送させてもらいますね。」

「分かりました。」






前方に位置するでっかい受付。

そこへ出向くと髪の毛クルン、まつ毛もクルンなお嬢さんにニコッと微笑まれた。

反射でへへっと笑い返してしまう。





ちなみになんで検査受けてるのかって?
どっか悪いのかって?





違う違う---アレだ。





会社既定による年に一度の健康診断。

本当はもっと早く受ける予定だったんだが例のS社との合同企画でなかなか時間が取れず・・・

というわけで一人寂しく病院まで出向いた次第なのである。






「では、こちらにサインをお願いします。」

「あ、はい。」






紙を受け取るとふわりと漂う甘い香り。

香水、じゃない。
あぁ、髪の毛か?

どうやらこの受付嬢の甘いフェロモンだったらしい。






(可愛いなぁ・・・)






頭の先からつま先まで手入れが行き届いてるっていうかキラキラしてるっていうか。

ちらっと見渡すと他のスタッフさん達も同じだ。

病院なんて久しぶりに来たが最近の病院スタッフはスペックが高いらしい。






ま、そんなことはどうだっていい。






「え・・・と、それじゃもう帰っても?」

「あ、ちょっと待ってくださいね。お渡しする書類がありますので、すぐ持ってきます。」

「・・・分かりました。」






(早く帰らないと・・・)






かわい子さんに癒されておいてなんだが---

思わず重いため息。


ふと壁時計に視線を上げると時刻は午後12:05。

健康診断ってこんなに時間がかかるもんだったっけ。

今日は午後から出勤なのだ。
昼休憩が終わる前に会社に向かわなければならない。






それに






早くここから退散しないとヤバい---







かもしれないのだ。







何がヤバいのかって?

何かまずいことでも起こるのかって?

そりゃお前‥








うかうかしてると、我がリアル弟---

司に遭遇するかもしれないんだよ。








現在地=T大附属病院

そしてここは司の職場だったりする。


最近改装されたばかりらしい院内はまるでホテルのようにピカピカ。

病院には縁が薄いが、これならたまにお邪魔しちゃおっかなーなんて思わせる雰囲気だ。


そんなT大付属病院に司が勤務してるなんて

しかも医師として働いてるなんて未だに信じられん。

私にも同じ血が流れてるはずなんだけどな・・・
どうやら頭の才能はヤツに全部持っていかれたらしい。




まぁとにかく




この1週間、ありとあらゆる手を使って司からの連絡を徹底無視してたからな。

こんなところでばったり鉢合わせでもしてみろ。

今までの苦労がペロンと水の泡に







「あっ!ちょっと見て見て!」

「や、やだラッキー!先生よ!今からランチかな!?」







(な、なんだなんだ?)






突然、目の前の受付女子たちが色めき始めた。






「あぁ、今日もステキ・・・!」

「ほんと・・・相変わらずセクシーよねぇ」

「ちょ、ちょっと待って・・・誰よあの女!」

「あんなに先生に近づいて・・・一体何様のつもり!?」






(・・・・・・こ、怖い・・・)






どうやらライバルが出現したらしい。

うっとり空気が一瞬で真冬に突入。

可愛らしかった笑顔はどこへやら・・・

さっきの受付嬢が(多分)私の書類を握りしめて般若に変貌しやがった。




それにしても・・・

アイドル的存在ってのはどこにでもいるもんなんだな。

我が社の直樹しかり
S社の変態もしかり

どうやらこの病院にもモテモテイケメンドクターが存在するらしい。






(どーれどれ・・・)






興味本位で後を振り返ってみる。

お、多分アレだな。

少し離れた一角にカルテ片手に真っ赤に顔を染めたナースと何やら話している男性を発見。






(ほう・・・)






白衣に眼鏡を装備した長身ドクター

艶やかな黒髪とシャープな輪郭
切れ長の眼に形の良い薄い唇

なるほどコレはマレに見る色男だな。

こりゃ騒がれるのも納得でき、る・・










(------あれ・・・)










ふと、イケメンドクターと目が合った。









「----。」









ふと、イケメンドクターと、目が、合っ










「-----っ!?」










まるで落雷に遭遇したかのような衝撃---

頭の先からつま先までバリバリと電流が走った。






どうしたのかって?
何が起きたのかって!?

そりゃお前---!!













(し----晋----!!)













見慣れない白衣姿だけれども

ステキ眼鏡なんかかけちゃってるけれども

あの黒髪長身イケメンはまさしく








最近どうも様子がおかしい








最強の美男---晋!








(ひ、ひぃぃぃ---!)








とっさに視線をブチ切り受付に向き直った。




・・・気付かれたか?




目が合ったのは数秒。

もしかして気付かれてないんじゃ・・・

いやでも目が合ったし--

いやでも、いや待て---!






「おおお姉さん!書類は!書類はまだですか!」






怒りで変身していたお姉さんを呼び起こす。

とにかく逃げよう。
事は一刻を争う事態だ。

書類をいただいてさっさとずらかるに限る!






「え!あ、すみませんっ、こちらです!」

「どどどうも!それじゃ!」

「は、はい、お気をつけて---あ!待ってください日下さん!カバン!カバン忘れてますよ!」

「!」






ぎゃーうっかり!

ていうかお姉さん!

そんなでかい声で名前呼ばないで--













「---おい、透。」



「-----!」













「お前、こんなところで何やってんだ?」

「----っ!!」














背中を撫でるように甘く

なのに無駄に恐怖を掻き立てるような







そんな聞き覚えのありすぎる低音が







頭のすぐ上から降って来た。