とある女子への考察

とある女子への考察01 realReal




「こ、こら西本!自分でやるから返せ---ぎゃぁぁ!!」
「大人しくしてろ。」
「「・・・。」」





俺は今、信じられない光景を目の当たりにしている。





「こんなんじゃ風邪引く。」
「引かないって!やめ、やめ、やめろああぁ!」
「「・・・。」」






バスタオルを巧みに操る男子。
こちらは我らがアイドル・西本迅さん。


そして迅さんに押さえ込まれ髪をわしゃわしゃやられてる女子。

こちらは流星のごとく現れたニューフェイス。
その名も佐野彰ちゃん。

なんとなく敬語で話したくなる雰囲気を持つ迅さん宅のお隣さん。






「いててて!このバカヂカラ!そんな強くやったらせっかくのツヤツヤ髪が台無しになるじゃないか!」
「ツヤツヤって・・・自分で言うなよ。」
「いいからもうヤメロ!子供じゃないんだから自分であぁぁ!」
「「・・・。」」





いちゃいちゃするなら他でやれ、とか
ちょっとイラッとするんすけど、とか

出来れば「チッ」とか言って目を逸らしたい。

でもそれは無理。

だって






迅さんが女子と戯れてるんすよ?








(なにこれ、有り得ない。)








迅さんと初めて会ったのは小学4年の時。


誰から聞いたのか、転校生が来ると騒ぎ立てるクラスメイト。
うるさいなぁと思いながらドキドキワクワクしながら登場するのを待った。


そして先生と共に現れたのが、迅さん。







天使かと思った。







男の子だってのは分かってたよ?

でも迅さんの姿があまりにも綺麗で
光り輝いているように見えて

天使って本当にいるんだ、なんて思った。





「あああの西本クン!俺、大崎アラタ!アラタって呼んで!」
「・・・。」
「そ、そ、そのっ!迅クンって呼んでもいい!?」
「・・・。」
「・・・えーと?」
「・・・。」





俺の天使は冷たかった。

あっち行けとでも言うようにギラッと睨まれた。

そして立ち上がり、無言で去っていった。





これが初めてのコミュニケーション。

ちょっとだけ涙が出た。





でも泣いたのは俺だけじゃない。




特に女子は一日に何人もの犠牲者が出た。

告白して無視され告白して無視され・・・



「放課後、廊下を歩いてると聞こえるんです。どこからかともなく女の子のすすり泣く声が・・・」



これは七不思議なんかじゃない。
俺らの学校では日常だった。





---冷たい天使





いつの間にかついてた迅さんのあだ名。

多分皮肉を込めて付けられたんだと思うけど、ピッタリだと思った。




人を寄せ付けない冷たい天使
人を受け入れない冷たい天使




正にその通り

迅さんは友達を作ろうとも話そうともせず、いつも一人で歩いてた。





それでもその美しさのせいだろう。
迅さんに近づきたいと思う人間は後を絶たなかった。


そして







俺もその一人!







「西本くーん!一緒に帰っていいっすかー!」
「・・・。」


小学4年。
無視されてもとにかく付きまとった。


「西本くーん!また一緒のクラスっすねー!」
「・・・ウザイ。」


小学5年。
ちょっとだけ喋ってくれるようになった。


「西本クンと一緒の中学なんて!マジ感激っすー!」
「うるせぇ。」


小学6年の末。
大分喋ってくれるようになった。




「あ、あの・・・・・・迅、さん。」
「なんだ。」
「-----------っあぁぁ!」
「?」



中1の夏、とうとう名前呼びに成功。
感動し過ぎて涙が出た。






そして高校2年の今に至るまで

俺はずーっと迅さんと一緒にいる。






その間、迅さんについて分かったこと。






まず、迅さんには親がいない。

ずっと親戚にお世話になっていて、そしてあんまり上手くいってないらしい。

そのせいか高校入学と同時に一人暮らしを始めた。



次に、迅さんは勉強好きでめちゃくちゃ頭がいい。

なんで勉強を頑張るのか教えてくれないけど、多分目指してるものがあるんだと思う。





そして最後に

迅さんは女の子が好きじゃない。





もちろん迅さんだって健全な男子なんで、性的な意味での女の子は好き。

でも学校の女の子と連れ立ってるのは見たことが無い。
綺麗なお姉さんと一緒にいるのはたまに見かけるけど。




とにかく性的な対象じゃない女の子・・・

つまり友達とか彼女とか恋人とか

そういう心の繋がり的なものを女の子に求めることは絶対無い。





「女は信用出来ない。」





これは昔からの口癖。

何があったのか知らないけど、これを言う時の迅さんはすごく冷たい顔をする。

ついこの間も言ってた。
あれは確か3年のマドンナから告白された後だったと思う。




それなのに






「あー、あったけー。西本、もっと右。違う、ここ、ここ。」
「ん。」





とうとう観念したのか。

彰ちゃんは迅さんの持つドライヤーで髪の毛を乾かしている。
そして迅さんは彰ちゃんの指示に従い風向きを変える。





「乾かしたら帰るからな。」
「・・・ダメだ。」
「いやいやダメじゃなくて。寝てないんだよ眠いんだよ。」
「却下。」
「却下って・・・なんだよ西本。もしかして寂しがり屋さんか?」
「・・・。」





迅さん、押し黙る。