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『透ちゃんこっち!早く早く!』
「へーい・・・」
時は本日。
誰もが愛する日曜日。
時刻は午後3時。
気持ち良くうたた寝したくなる時間帯だ。
『大人2枚、お願いします。』
『大人2枚ですね。少々お待ちください。』
ちなみに現在地は・・・
えーと、ここはどこだったっけ。
まあいい。
とりあえず、今何をしているかというと---
『ひたすらアンティーク!夢のヨーロッパ展へようこそ!!』
「ありがとう。さ、透ちゃん、行こう?」
「・・・はい。」
(夢のヨーロッパ展・・・?)
ふざけんな。
私は今---
別名「悪夢のヨーロッパ展」へと足を踏み入れた。
『こら!なんで休憩しようとしてるの!今来たばっかりだろ?』
「いやいや疲れてるんで・・・私のことは心配ご無用。ひたすらアンティークを楽しんでおいで。」
『一人で見て回るなんて嫌だ。ていうかそこ座っちゃダメ。そのイス展示品だよ?』
「え、マジで?」
うっかり展示品に座り込もうとする自分。
だが仕方ないんだ。
疲れてんだよ私は。
『見て見て。すっごい大きなキャンドルがあるよ。』
「ほんとだー。ちょーでっかーい。すげー。」
『あんなの持ってれば停電になっても平気だね。』
「そーですねー。」
疲れのせいかついつい返事が棒読みになる。
ちなみに並んで歩くこいつ・・・
いや
私を引きずって進むこのヤローは
---相川玲
変態、俺様に続く最後のゲーマーだ。
(なんで私がこんな目に・・・)
ちなみになんでこんな目に合ってるかというと
事の始まりは---コレだ。
玲「俺、泣きそうになったんだからね。」
「本っっ当、申し訳ない!」
時をさかのぼること数日前。
私はひたすら謝っていた。
「スミマセンデシタ。許シテクダサイ。」
玲「もー。」
なぜ謝っているかって?
それはね・・・
約束をすっぽかしてしまったからだよ。
玲「香織ちゃんと直樹君が付き合ってくれたから良かったけど・・・2人がいなかったら泣きながら一人酒だったよ。」
「ゴメンナサイ、反省シテマス・・・」
ちなみに約束ってのはアレだ。
晋に拉致されたあの日に言われた「待っててね」のこと。
まあ、約束といっても一方的に押し付けられたようなもんだったんだけどな。
だが約束は約束。
結局晋のせいで約束を破るはめになり、そして現在ひたすら謝ってるってわけだ。
(チッ、あの俺様ヤロー。今度会ったら覚えてろ---)
いやいや待て・・・
しばらく晋のことを考えるのはやめよう。
どうもヤツは様子がおかしい。
これ以上関わるとこっちまで頭が変になりそうな気がする。
とにかく
結果的に約束を破ってしまった私。
そして翌日の夕方
たまたま玲さんとの約束を思い出し謝罪の電話を入れた。
玲「もう仕方ないなぁ。それじゃ、次の日曜日付き合って?」
「嫌です。」
玲「・・・。」
「・・・。」
玲「---そこは"もちろん"って言うとこだろ?」
「絶対嫌です。」
付き合うのは無理。
なぜなら身の危険を感じるからだ。
もちろん反省はしてるぞ。
だがお詫びは別の方法で示したいと思う。
しかし---
玲「透ちゃんの薄情者!人を傷つけたらいつもの3倍優しくしなさいって教えてもらわなかったの!?」
(教えてもらわなかったけど・・・)
だが「薄情者」には良心がピクリと反応した。
例えどんな事情があろうとも薄情者と呼ばれるのはいただけない。
「あーもう、分かりましたよ。ちょっとだけなら付き合います。」
玲「え、本当?」
「その代わり・・・変なことすんなよ。」
玲「変なことって何?」
「そりゃ変なことっていったら・・・あんなことやそんなことやこんなこと--」
玲「うわ、透ちゃんのエッチ。」
君らにだけは言われたくないね。
玲「それじゃ日曜日の朝9時。家に迎えに行くね?」
「はいはい了解------って、朝9時!?早すぎません!?」
玲「だって記念すべき初デートだからね。気合入れなきゃ。」
「え、これってデートなんですか?」
玲「当たり前だろ?」
えー、それなら行きたくない。
玲「それにハードスケジュールだから・・・そうだ、動きやすい格好してきてね?」
「なんでですか?一体どこに行くつもり」
玲「それじゃ、楽しみにしてるよ。」
「えっ!おいコラ---ちょっと待てー!」
と、いうわけで
どこへ行くのか何をするのか
言葉通り何も分からないまま当日を迎えた。
玲「おはよう透ちゃん。久しぶりだね。」
「・・・そーっすね。」
不満と不安でいっぱいだったが、とりあえず9時に家の前の道路に出た。
約束には遅れない派なのか。
玲さんはすでに到着してて見るからに高級そうな車にもたれて立っていた。
玲「もー、そんな仏頂面しないでよ。せっかくのデートなんだから笑って?」
「・・・。」
玲「笑ってくれないならそれでもいいよ。その代わり、今日一日透ちゃんのこと薄情サンって呼んでもいい?」
「・・・薄情サンって誰のことー。今日はどこに連れてってもらえるんだろー。超楽しみーうふふー。」
玲「すごいね透ちゃん。それって笑ってるつもりなのかな。」
「・・・。」
目を細め爽やかに微笑む玲さん。
言ってることと表情が噛み合ってない。
『やだ!ちょっ、見てよ!すっごいイケメン!』
『うわ!すご!カッコイイ!』
『ほんとだ!綺麗な人・・・』
不意にコソコソ声が耳に入る。
チラッと見るとたまたま通りかかったんだろうトリプル女子。
足を止め頬を染め、玲さんに熱い視線を送っている。
(ふーん・・・)
女子たちから視線を戻す。
そして改めて上から下まで玲さんを見てみる。
①明るいブラウンのさらさらヘアー
②細いけど貧弱ではない長身の体
③ジーンズスタイルのラフな格好してるのにどこか品を感じさせる雰囲気
そして
④綺麗に整ったプリンスフェイス
実はあまり顔を覚えていなかったんだが・・・
改めて見ると背筋が凍りつくようなイケメンっぷりだな。
玲「どうしたのそんなに見つめて。もしかして俺に惚れちゃった?」
「いやまさか。」
玲「そう?それじゃほら、乗って?」
「・・・。」
ニコッと微笑んで助手席のドアを開ける玲さん。
そうだよな。
車に乗らなきゃいけないんだよな・・・
「失礼します---はぁ・・・」
玲「こら、ため息つかないの。」
デートなんて、正直言って気が進まない。
だが---名誉挽回のためだ。
今日一日だけ、気合で我慢しようと思う。
玲「じゃ、出発するよ?」
「へいへーい。で、どこに行くんですか?」
玲「気になる?」
「そりゃ気になるでしょ。」
玲「それじゃ発表します。記念すべき初デートの目的地は」
---うっかり大公開!ヨーロッパの古城展!
・・・なんだそりゃ。
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