秘密

秘密—–1 GAME


香「ちょっと透!どこに行くの!?」

「非常口。香織も探すの手伝ってくれよ。」

香「非常口?」

 




本日、顔合わせから二日明けた金曜日。

現在、昼ご飯を早めに食べ終わり会社内をうろうろしている。

 




香「なんで非常口なんか探すの。」

「言っただろ。今日は変態が来る日なんだ。もしもの為に脱出ルートを確保しておかないと。」

香「変態って・・・」




 

本当は昨日探し出しておきたかったんだが、晋の件で社内の女子連中に追いかけ回されてそれどころではなかった。

 




香「でもなんで逃げちゃうの?辰巳さんも晋さんもいい男じゃん!もう一人も凄かったんでしょ?」

「凄かったぞ。」

香「そんな3人から言い寄られるなんて・・・最高じゃない!」

「あのなぁ・・・」

 




何が最高だ。
最悪の間違いだろう。

 

晋が迎えに来た次の日、まぁ昨日ですが---
香織から「あの人はなんなのー!!?」と凄い勢いで掴みかかられた。

逃げ切ると決意したからな。

香織にも協力してもらおうと思いまして簡単にゲームのことを説明した。

 




「言い寄られてるんじゃない。ゲームだって言っただろ。心の病気なんだよあいつらは。」

香「それでも羨ましい。あの人達になら弄ばれてもいいかも。」

「じゃぁお前が代われよ。推薦してやるぞ。」

香「そ、そんな甘い誘惑はやめて。真剣に悩んじゃうじゃん。」

 



悩むのかよ。

 



香「でも遠慮しとく。今彼とうまくいってるから。」

「はいはいそうですか。」

 




のろけ話に夢中になる香織を引き連れ、脱出口をいくつか見つけ出した。

これで完璧逃げきれる。
どこからでも掛かって来い変態。

思わずニヤリと顔が緩む。

 




『あ!日下さん!』

「え?」

 




ニヤけていると声を掛けられる。
目の前には瞳を輝かせた3人の女子。

 




「なんですか?」

『あ、あのっ!この前の人って彼氏なんですか!?』

 




(またかよー・・・・)

 




昨日からこの手の質問が耐えない。

この前の人ってのはもちろん…

俺様・晋だ。

 




「違いますよ。あの人は友達の親戚の友達です。」

『そ、そうなんですか!?』

『あ、あの!良かったら紹介してもらえませんか!?』

「・・・すみません。連絡先とか知らないんです。」

『そ・・・そうなんですかー。』

 




がっくり肩を落とす3人。

ごめんな。

連絡先知ってるんだけどあいつと連絡を取るのが嫌で堪らないんだよ。

 




『あの日下さん!』

「・・・・・・・・友達のいとこです。」

香「違うよ透!友達の親戚の友達だよ!」

「・・・・・・それです。」

 




それにしても・・・
昨日から同じ説明を何度繰り返せば気が済むんだろう。

正直言って面倒だ。

 




香「一躍有名人になっちゃったね、透。」

「はぁ・・・本ッ当に迷惑だ。」

 




しょんぼりして立ち去る女子達の背中を追いながら溜め息。
マジでいい加減にして欲しい。

 




香「でもさ、透って変わってるよね。」

「変わってる?なんで。」

香「透ってイケメンにトキめかないの?」

「またそれかよ。」

 



最近誰かにも言われたような・・・

 



香「昨日会った晋さんもそうだけど、辰巳さんもそこら辺のいい男とは全然違うじゃん。」

「それは認めるぞ。確かに凄いと思う。」

香「もしあの人達にトキめかないんなら・・・透はきっと病気だね。もしくは男子なんだよ。」

「あのね香織ちゃん。顔が良くても中身が残念って人もたくさんいるんです。あいつらがいい例だ。」

香「はぁ、もったいない。昨日から騒いでる女子に言ったら・・・恨まれちゃうよ?」

 



恨まれようがなんだろうが。
あいつらに関わらないで済むならなんだっていい。

 



「とりあえず徹底的に逃げるからさ。香織も色々と協力してくれよ?」

香「分かってる!もう一人のイケメンを一目見れるならなんだってやるよ?」

「・・・いやいや。それはちょっと勘違い---」

『日下!!』

「は?」




 

脱出口も確認したし、そろそろ職場に戻ろうと通路を歩いていたら後から声。

振り返ると、そこにいたのは我らが部長。

 




「なんですか?」




 

少々焦った様子でこっちに近づいて来る。
なんだ・・・一体何があった?

 



部「日下・・・良くやった!」
「え?」



 

力強く手を握られ、ぶんぶんと握手。
さっぱり意味が分からない。

隣にたたずむ香織と目を合わせ、首を傾げる。

 



部「お前が担当してたS社との合同企画が決まったんだ!」

「え・・・あ、あれがですか?」

部「そうなんだよ!他5社の中からうちを選んでくれたらしい!」

「へぇ、そりゃ良かったですね。」

部「なんだその薄い反応は!」

 
 

手を放してくれたかと思ったら今度は肩をバンバンやられた。
痛いぞ部長。

 



部「そこでだ!今夜、S社の方と顔合わせがある!お前も来てくれ!」

「へ?」

 



(・・・・・・今夜・・・今夜?)

 



 

い、今・・・・今夜って言ったか?

 



 

部「先方がお前の企画を非常に気にってるらしくてな?お前に会いたいと言っているんだ!」

「・・・・・・・・・・。」

部「頼むよ日下!私にとっても大チャンスなんだ!急だし週末で予定もあるとは思うが・・・この通りだ!」

「・・・・・・・・・・。」

 



肩に手を掛けたまま軽く頭を下げられる。

そうだよな。
あの企画って結構大きかったもんな。

あれが通ったってことは成功させればかなりの実績になるはずだ。

部長にとっても、もちろん私にとっても---

 

 


いやいやそんなことはどうでもいい!!

 


 

「ウェルカムラッキースター!!!」

香「透!?」

部「どうした日下!?」

 



思わず意味不明なスターを叫んだ。

だがそのくらい嬉しかった。

私はツイてる。
確実にツイてる。

運が私を・・・応援している!!

 



「部長やりましょう!どーーーーしても断れない予定があったんですが!そんなの----無視っすよ無視!ティッシュに包んでポイっすよ!!」

部「日下ーーー!!」

香「・・・・・・・・・・・。」

 



天が私の味方についている。
間違いない!!

 



「で、どうすればいいんですか!?」

部「とりあえず!勤務が終わったら私の所に来てくれ!」

「了解です!」

 



スキップしながら去っていく部長を見送り、私もスキップしながら職場へ戻った。

 



香「もう・・・・透ってば。とりあえずおめでとう。」

「サンキュー!」

香「でも、本当にいいの?辰巳さんのこと・・・」

「いいも悪いも仕事だからな!仕方ない!」

香「ちゃんと連絡してた方がいいと思うけどなぁ。」

「いいんだよ別に。元々すっぽかすつもりだったんだから。あー、いい気分!幸せヤッホー!」

香「・・・・・・・・・・・。」

 



デスクチェアーに座り込み、くるくると3回転してやった。

今夜は仕事での顔合わせ。

これで、何かの間違いが起こってあの変態にとっ捕まる心配もなくなった。

さすがのあいつも仕事まで邪魔しにくるなんてことは有り得ないだろう。

 



つまり

 



逃げ切り成功---確定。

 



(ありがとう・・・ありがとうS社!頑張るからな!)

 



いつもは眠くなる午後からの勤務もスッキリいい気分で時間が過ぎていった。